ラブホに出入りする者から掘り当てた"事実"

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ちょっと立ち話をしていた場所が、たまたまラブホテルの前だったわけだが、入れ替わり立ち替わりで色んなヒトが出入りするのを眺めながら、わたしはとある顧問先の話を思い出していた。

 

それにしても、ラブホというのはニンゲンの本能的な姿が反映される場所である。そのため、二人(?)の関係性を想像してみたり、どんな目的で利用したのかを架空で設定してみたりと、勝手に他人の人生を妄想できるのが楽しいわけで。

さらに、これは場所柄も関係するだろうが、若いカップルの利用客はほぼ皆無で、カップルと思しき二人はオッサンと熟女だったり、二人とも白髪で杖をついた老人だったりと、失礼ではあるが思わず二度見したくなるような組み合わせが多かった。

そして、カップルではないだろうな・・と薄々感じてしまう二人は、言わずもがな派遣されたデリヘル嬢とその客という組み合わせ。だが不思議なことに、こちらのほうが潔さ・・というか、まるで仕事に向かうビジネスパーソンのような凛とした佇まいをしているから面白い。まぁデリヘル嬢にしてみれば仕事なわけだが——。

 

とどのつまりは"大都会のラブホ"だからなのだろう、イチャイチャしながら入って行く者も、恍惚とした表情を浮かべて出てくる者も皆無。ただただ"これといって特筆することもない"といった感じで、サバサバと出入りする者ばかりなのだ。

(もはや、ジムでワークアウトする感じなのかもしれない・・)

 

ラブホ利用客に混じって、とある男性がさっきから何度もホテルを往来していた。——そう、シーツやタオルのリネンサプライを担う業者だ。

目の前に路駐したトラックから山積みの白い布束をおろすと、台車に載せて搬入口を往復するのだが、帰りは使用済みのリネン類が入ったランドリーバッグを積んで戻ってくる・・という、まさに仕事でラブホの出入りをしているヒトである。

 

そして彼の姿を見ながら、わたしはかつて行われた「税務調査」について思い出していた。

 

 

「売上げを過少申告していますよね?」

税務署の職員は揺るぎない確信を得た表情で、顧問税理士に向かってそう告げた。「そんなはずはない」と答える税理士に向かって、証拠写真とともに彼らがなにを調査してきたのかが示された——なんと、リネンサプライが回収するランドリーバッグの中身、つまり使用済みのシーツやタオル類の枚数を数えていたのだ。

 

これにより、事業主が申告していた売上げが嘘であることがバレてしまった。そう、計上していた一日の売上げと、回収したリネン類の枚数とが一致しなかったのだ。

今となっては過去の話であることと、ラブホテルという特殊性を鑑みると、売上げを誤魔化すことは容易だった時代ともいえるだろう。おまけに、手書きの帳簿類に現金主義の会計処理、それゆえに事業主がこっそりくすねても、バレないように帳尻合わせが可能だったのだ。

 

"まさかの方法で虚偽申告がバレる"という、貴重(?)な経験をした税理士も驚きだったと思うが、国税調査官も使用済みリネン類を数えてまで虚偽を暴くとは、なかなか根性が座っている。

とはいえ、そこまでするにはそれなりの理由や確証があったからに違いない。加えて、調査官に付与された特別な権利——調査権を行使することで、証拠品や資料の押収が可能となるわけで、根性云々ではなく単純に「仕事熱心な公務員」だっただけかもしれないが。

 

 

そんなショッキングな税務調査の話を思い出しながら、わたしの目の前を横切るデカいクリーニングバッグと台車を、なんとも複雑な気持ちで見つめるのであった。

たかが使用済みリネン類・・だが、そこから利用者数がはじき出された結果、ラブホの売上げが明らかになってしまうのだから看過できない。

 

いずれにしても、ニンゲンの執念というやつは恐ろしいほど粘着質なのである。

 

Illustrated by 希鳳

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