シュールシュール

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(ま、まさか顔出し声出しアリとは・・・)

ドキドキしてくれた諸君には申し訳ないが、これはAV(アダルトビデオ)出演の話ではない。ではなんの話かというと、わたしは今日「ショートショート講座」なるものを受講したのだが、その際に突然のグループディスカッションを強制された、という話である。

 

ショートショートとは、小説のなかでも特に短い作品を指す。どのくらい短いかというと、厳密な文字数制限ははないので、それこそ数百文字でもいい。だがその分、長くても8,000文字程度までで、サッと読みきれるボリュームの作品を一般的に「ショートショート」と呼んでいる。

「小説を書く!となると一世一代の大勝負という気がするが、ショートショートであれば挑戦できるかも・・・」

そう考える人は多いようで、昨今のショートショートコンテストには数多くの「作家の卵」が応募している。そして、わたしも張り切って応募してみたのだが、案の定、見事に落選した。

 

しかし、残念ながら「いい出来だったのに、悔しい!」「私の才能が分からないなんて、審査員の目は節穴だ!」とは思わなかった。なんていうか、自分なりに違和感を覚えていたからだ。

こうやって、好き勝手に脳内のイメージを文字にするのは得意である。その証拠に、3年近く毎日毎日2,000文字程度のコラムを吐き出してきたのだから、少なくとも苦手ではないはずだ。そして、どちらかというと奇妙で怪しい妄想や穿った見方をするのが好きであり、自分よがりの偏った世界観を文字にすることで、ある種の満足を感じているのだ。

となると一見、小説につながるような空想の世界が広がるようにも感じるが、実際のところはファンタジーとは真逆に位置する「超リアルな狂気」が、わたしの取り柄であり持ち味なのだ。

 

そしてこれは、ショートショートを書くにあたってなんの役にも立たなかった。役に立たないどころか、足を引っ張る結果となった。とどのつまり、わたしはリアリストなのだ。それゆえに、なにをどうひっくり返しても非現実的な妄想を抱くことができない、現実主義者なのだ。

だからこそ新たな世界、すなわちロマンチストの扉を開くべく、今回のショートショート講座を受講すると決めたのだ。

 

 

「ではグループに分かれて、作品を発表し合いましょう」

突然の講師の発言に、わたしはひっくり返りそうになった。ZOOMを通じての受講だが、生徒側の音声はミュートであり、一方的に講師の話を聞くだけだと思っていたのだ。

 

しかも短パンTシャツ部屋着姿の受講者は、パッと見る限りわたししかいない。それゆえに、まさか自動的にグループが組まれ、そこでディスカッション方式の発表会をすることになるとは、思いもしなかったのだ。

(しまった・・・せめて外出できる格好にすればよかった)

後悔するも時すでに遅し。いまから着替えるにしても、グループのメンバーにわたしの生着替えを披露することとなり、それはそれで事件である。

できる限りだんまりを決め込み、影の薄い存在感のないオンナを演じよう――。

 

作業工程として、まずは名詞を20個列挙する。そこから任意の一つを選び、その名詞から連想される言葉を10個書き出す。その後、連想される言葉と最初に列挙した20個の名詞とを組み合わせて、「不思議な言葉」をつくる・・・というものだった。

こうして出来上がった「不思議な言葉」を、グループ内で発表しあうのである。しかも「誕生月の早い順に」という指定があったため、6月生まれのわたしはトップバッターとなってしまったのだ。

 

「前歯が立派なロレックス」

「手足に水かきがついてる日焼け止め」

「だいたい寝ているスイカの皮」

「時速50キロ、5分間の潜水が可能なピッツァ」

「名前の意味は『草原の支配者』という電動のこぎり」

「撫でるとタワシのようにボワボワになるアレクサ」

「アマゾン川流域が原産地のボイラー」

「野生ならば即死というほど人間に懐く散弾銃」

 

・・・いいんだ。決して恥ずかしい内容ではない。そして、仮に恥ずかしかったとしても問題はない。なぜなら、ロマンチストになるための第一歩なのだから、意味不明な言葉に慣れなければいけないからだ。

そしてお分かりいただけただろうか。「不思議な言葉」の前半となる部分は、そう、すべてカピバラのイメージである。カピバラから連想されるイメージを、任意の名詞とくっ付けて新たな言葉を作り出したのだ。

 

しかしわたしは女性であり淑女である。それなのに、スイカの皮だの散弾銃だの電動のこぎりだのボイラーだの、名詞のチョイスがオトコ、いや、オッサンぽいではないか。

他の受講者は、ペガサスだのオーケストラだの桐箪笥(きりたんす)だの、いかにも小説で使えそうな素敵なアイテムを思い浮かべている。そもそも、適当に列挙した名詞を聞いただけで、およその人物像が浮かんでくるからバツが悪い。

(こいつ、ヤバイ奴なんじゃないか・・・)

そう疑われるのに十分な要素を蓄えたわたしは、身なりから名詞の列挙まですべてを恨んだ。

 

 

まぁそれはいいとして、小説を書く人あるいは書いてみたいと思っている人というのは、思考や発想がファンタジー寄りにできている。ワードチョイス然り、見た目も穏やかで本の香りが漂ってきそうな雰囲気を纏っている。

それゆえ、わたし以外のメンバーの発表を聞いているだけで、なんというか耳が心地いい。あぁ、この人は脳内でこんなことを考えていたんだ――と、わたしには縁遠い「素敵でやわらかな海」が広がるのだ。

 

(うん、これは無理だ――)

 

ショートショート講座を受講して、わたしは「ショートショートを書くのは無理だ」ということを悟ったのである。

 

Illustrated by 希鳳

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2件のコメント

昨夜はお疲れさまでした。僕もあそこまでの顔出し必須&がっつりグループワークは想定外でしたが、自分からは浮かばないワードや物語を色々味わえて楽しかったです。
個人的には「時速50キロのピッツァ」が、宅配じゃなくてピザ自身が走る?わー、面白い!と気になっていたのですが、そういう背景だったとは(笑)。裏を聞けると楽しいですねー。ぜひ、完成させちゃってくださいませ!

おーーー!!!まさかのコメント、ありがとうございます!!!
本当に読んでくれるとは、マジで嬉しい!!!
関係ないですが「はずる」が好きです笑

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