下心満載のいやらしい目つきで、オトコどもがアタシに寄ってくることなど、皆無に等しい人生を送ってきた。
なのに、今日に限ってはどういう風の吹き回しだろうか。アタシの周りにオトコが群がる。
女友達を介して見ず知らずのイケメン3人を紹介され、チヤホヤされるアタシ。どうやらとうとう、人生におけるモテ期が到来した模様。
だがクールを装うアタシは、群がるオトコどもを軽くあしらい、
「アタシ、オトコに困ってないから」
という素振りを見せる。そうそう、こういうところでイイ女と欲望むき出しの女との差がでるのよね。
にもかかわらず、オトコたちはアタシを放ってはおかない。さっきからしつこく、アタシの予定について根掘り葉掘り探っているわ。
しょうがないボーイたちね、落ち着きなさい。順番に相手をしてあげるから。
しばらくすると、今度は屈強なフィジカルのオトコが近づいてきた。
(・・あら、悪くないわね)
朴訥としたそのオトコは、おもむろにアタシの腕をつかむと情熱的に握りしめた。
あぁ、公衆の面前でなんてことを!でもここは異国の地、ラスベガス。このくらい情熱的でなければ、メイクラブなんて叶わないわ。
日に焼けた肌が眩しいマッチョに右腕を委ねたアタシは、しばし恍惚の時を過ごした。すると突如、
「僕にも左手をください!」
と、長身の金髪が割って入ってきた。アタシの右手はマッチョのもの、そして左手は金髪に奪われてしまったのだ。
(あぁ、二人ともアタシのために争わないで!)
歌詞にありそうなセリフが、ふと口をついて出る。
だがこれもモテるオンナの宿命。オトコどもに争わせるだけ争わせればいい。自然界ならばこうして、戦いに勝ち残ったオトコだけが種を残せる仕組みであり、戦わないことはすなわち弱者を意味する。
よって、モテ期が到来したアタシの周りには続々と猛者どもが集い、たった一人の女王を奪うための、熾烈な戦いが繰り広げられるのであった。
「喉は乾いてないですか?」
また新たなオトコがやってきた。――そうね、少し口に含んでもいいかしら。
ニューフェイスから手渡されたミネラルウォーターでのどを潤し、息を整えたアタシ。名残り惜しい気持ちはあるものの、両手を握りしめるオトコたちを振り払い、アタシは新たなハンティングへと旅立っていった。
そう、モテるオンナというのは留まることを知らない生き物なのよ。
アナタたちとの思い出は決して忘れないわ。ありがとう、そして、サヨウナラーー。
*
試合会場にて。
わたしは自分の試合時間を把握していなかった。すると他ジムの男性らが、オンラインで試合順をチェックをしてくれていた。
「まだ確定していないですね」
「あ、試合順が出ました。そろそろ行きましょうか?」
見ず知らずのわたしのために、何の得もないのにこうしてサポートをしてくれるとは、何と素晴らしい人たちだろうか!
しかも全員、イケメンときている。神様はややもすると、二物を与えがちなのだろうか。
いよいよ試合順が近づき、ウェイティングエリアに入る。するとフェンス越しに、他ジムの先輩がわたしを呼んだ。
「腕、パンパンだろ?」
そう言いながら、慣れた手つきでわたしの右腕と手のひらを揉みほぐしてくれたのだ。その様子を見てた同ジムの選手も、
「じゃあこっちの腕をやります!」
と、見様見真似でわたしの左腕をマッサージする。
――あぁ、なんて素晴らしい人たちなんだ。
わたしは彼らのために何一つ、役に立つことなどしていない。それなのに、見返りも求めずにこうして助けてくれるとは、なんたる人格者か。
どうか彼らに幸多からんことを!
(了)
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