「どんな理由であれ、遅刻は遅刻!」とは言うものの・・

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ここ最近、遅刻に対してナーバスになっているわたしは、「今日こそは遅刻するまい!」と、固い決意を胸に家を出た。その後、いくつかの予定を順調にこなし、残すはジムへ行くだけとなったが、実はこの「ジムへ向かう行為」に対する遅刻が常態化しているわけで、何が何でも間に合わせなければならなかった。

「URABEのことを分かってる俺としては、待ち合わせに遅刻するのが前提なので、時間通りに来られたりしたら、むしろこちらの時間を奪われることになる。待っている間にこれやろうと思ってたのに・・って感じで」

と、仲の良い友人らはわたしとの待ち合わせを「遅刻ありき」で考えているので、それはそれでありがたいことである。しかし、ジムのスケジュールについてはそうはいかない。時間になったらクラスは始まるわけで、当たり前だがわたし一人が遅れようが何しようが、開始時刻に影響は出ない。

 

「それにしても不思議なのは、一応“遅刻しないように急いでる風な振る舞い”を見せることなんだよね。そこまでをセットで演じているというか」

とある友人の発言だが、断じて「急いでいる風を演じている」などということはない。いつだって遅刻しないように・・というか、相手を待たせることに対して真剣かつ真摯に向き合い反省しているからこそ、可能な限り急ぐのである。

とはいえ、そもそも遅刻しているのだから「今さら急いだって結果は変わらない」と言われればそれまでだが——。

 

そういえば昨日、スタバの店舗名が酷似していたせいで、わたしが待ち合わせに遅刻した話を聞いた友人が、

「あの話ね・・いつも遅刻しない人が言うなら分かるんだよ。でもURABEは、どんなに遅刻をしない工夫をこらしても、新たな遅刻原因を発生させる天才だからさぁ」

と、辛辣だが的を射たコメントをくれた。たしかにその通りだ——決して、わたしが好き好んで遅刻の原因を生み出しているわけではないにもかかわらず、なんだかんだで予定時刻に間に合わない現象が起きてしまうのだから、もはや不可抗力といえる。

 

そして本日、いよいよラストの予定となる”ジムへ向かう時間”が訪れた。とはいえ、またもや所用のため遅刻が確実となってしまったわけだが、それでも最小限の遅刻で済ませるべく、わたしは新宿駅構内を走った。

新宿駅といえば、世界一の乗降者数を叩き出す巨大ハブステーション。そのため、改札をひとつ間違えればとんでもない遠回りをさせられる可能性もあり、新宿駅の素人にとってはある種の「迷宮攻略」に近い感覚を抱く場所である。

 

そんな巨大迷宮の階段を降り始めたわたしは、まるで超能力でも授かったかのように、とある中年男性の背中に釘付けになった。

(・・・あいつはヤバイ)

明らかな挙動不審者ではないが、なんとなく足元がおぼつかない様子が引っかかる。そんなオッサンに対して、わたしの”遅刻センサー”が反応したのだ。あのオッサンは何かしでかす、絶対にあいつはわたしに迷惑をかける——。

そう思いながら、オッサンがやらかす前にその場を立ち去ろう・・と、足早に階段を降り始めた瞬間、奇しくも”脱力した人間が地面に倒れ込む音”が響き渡ったのだ。

(クソッ・・遅かったか)

唇を噛みしめながらオッサンのほうへ目をやると、案の定、階段から転げ落ちて天地逆になっていた。

 

ディズニーランドと同じくらい混雑している新宿駅構内の階段は、オッサンが転落したせいで騒然となった。そのせいで、わたしも身動きが取れなくなってしまったのだ。あぁ、これこそが恐れていた事態・・・。

目の前でヒトが倒れたわけで、救助活動をするのが義務というもの。だがわたしは、ただでさえ遅刻が確定しており、これ以上の遅れは1分たりとも許されない身である。ましてや、このオッサンは倒れるべくして倒れたのだから自業自得といえる。おまけに、身動きが取れないほどのあふれんばかりの人混みということは、わたしじゃなくても彼の身を案じてくれる通行人は大勢いるはず。要するに、わたしじゃなくてもいいはず——。

 

こうしてわたしは、心を鬼にしてその場を離れた。無論、心優しい通行人らがオッサンを介抱をする姿を確認した上での戦線離脱なので、要救助者を放置したわけではない。

そのおかげで、わたしは遅刻を最小限に食い止めることができた。遅刻は遅刻だが、それでも「限りなく“遅刻していないに等しい遅刻“で済ませることができた」と、勝手に自負しているのである。

 

・・・とはいえ、今日もまた遅刻だったのか。

 

Illustrated by 希鳳

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