よく「マスクなんか着けているのは、日本だけだ!」という声を聞くが、実際のところどうなのだろうか。
メディアというのは、見せたい部分だけを切り取って、都合よく組み合わせることが特技のため、あたかも「海外では誰もマスクなど着用していない画」を見せているのかもしれない。
そして海外では、ほんとうに誰もがマスクを着けていないし、マスク着用を推奨していないのだろうか。
そこで、わたしが先日ニューヨークで実際に触れた「現実」についてお伝えしよう。
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マンハッタンにある七番街28丁目の交差点には、カラフルなデザインのテントが立っていた。
即席テントの表面には「COVID-19 TESTING」の文字と、検査キットのイラストとともに「$0 COST」と書かれてある。
24時間後に結果が出て、費用は0円のPCR検査ということで、日本でもよくある「街角PCR検査スポット」といったところだろう。
ここ以外にも、何ブロックか離れた交差点でもこのテントを見かけたため、どこもかしこもというわけではないが、PCR検査が無料でできる場所は確保されているわけだ。
信号待ちの間にチラッとテントを覗いてみると、客はおろかスタッフがいない。
飲みかけのペットボトルが置かれているので、トイレにもで行っているのだろうか。さらに、検査キットが入っていると思われる箱は、未開封のまま綺麗に並べられていた。
しかし、滞在期間中に通り過ぎたPCR検査テントには、なぜかいつも人がいなかった。監視カメラでも設置して遠くから見ているのかもしれないが、とにかくスタッフと思しき人間はどこにもいなかった。
無論、検査を希望する客もいないのだが。
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移動手段として、日々に何度も地下鉄を利用したわたしは、トレインジャックされた車両に乗る機会があった。
トレインジャックとは、車内広告を一社で貸切る方法のことだ。そうすることで、乗客に対して圧倒的な一体感とインパクトを与えることができるため、非常に効果的な広告方法といえる。
そして、わたしが乗った車両がどんな広告で埋め尽くされていたかというと、マスク着用広告だった。
黄色ベースの広告で塗りつぶされた車内は、なぜか気分がよかった。黄色という色がビタミンカラーということもあり、元気をくれるのかもしれない。
ちなみに広告主は企業ではなく、MTA(Metropolitan Transportation Authority)という、ニューヨーク州都市交通局が自社で行ったものだった。
あれば便利な路線図も、よくある広告ナンバーワンの奨学金の広告もない代わりに、車内のいたるところで「正しいマスク着用の方法」や、「(マスクは)あなたの知らない誰かの命を救う」という強いメッセージが発信されている。
これはある意味、アメリカだから可能なことだ。こんな強烈なメッセージを日本で出したならば、とんでもない騒ぎになること間違いなし。
「マスクは、誰もが持っている意見のようなものである」
「アゴマスク→ダメ、口が出た鼻マスク→完ぺきではない、鼻が出ている口マスク→やり直せ、鼻と口を覆ったマスク→これです!」
こんな内容で車両ジャックをしたら、間違いなくトラブルの元凶となるだろう。
しかし悲しいかな、正しくマスク着用をしたイラストの横に書かれた「That’s the one」の表記で、意図的か偶然かは分からないが広告が破られていた。
そして「one」の代わりに「SHIT」と書き加えられており、まるでマスクを正しく着けている人をディスるかのような内容になっていたのである。
そんな無法者は置いておいて、まっとうな乗客たちはきちんとマスクを着けているのだ・・・・・
誰もマスクなど着けていないじゃないか!!!
乗客の9割以上は素顔をさらけ出している。アジア系の人間で、たまにマスクを着用している人を見かけるが、日本におけるマスク着用率と真逆の結果がここにあった。
トレインジャックを敢行してまで、マスク着用の必要性を訴えかけているにもかかわらず、その広告をまじまじと読みながらも、誰一人としてマスクを着けていないのだから滑稽である。
むしろ、ここまで強い言葉と表現でマスク着用を懇願しているのに、それを理解しながらも無視する精神というのは、アメリカ人ならではなのかもしれない。
日本人には、そんな強メンタルは備わっていないわけで。
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というわけで、行政側としては積極的にマスク着用を訴えかける節は感じられたが、地下鉄以外のホテルや商業施設、公共施設などにおいて、マスク着用のキャンペーンを見ることはなかった。
となると、街角PCR検査テントは、いったい何のために存在するのか。まぁこの辺りも、政治所以のものなのだろう。
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