冷たい鼻の頭と黄色い顔面

Pocket

 

わたしは今、自宅のリビングで横になっているのだが、ふと触れた鼻の頭がめちゃくちゃ冷たいことに絶望している。

ここは日本であり、外気温度は4度ある。少なくとも、先週ニューヨークで味わった気温マイナス13度、体感温度マイナス24度と比べると、明らかに暖かいわけだ。

それなのになぜ、わたしの鼻の頭は冷たいのだろうか。

 

大阪城公園の梅林が見頃を迎えていると、昨日のネットニュースで見かけた。

暑さに近い暖かさを感じたわたしは、帰国した途端にジャケットを脱ぎ捨てた。日本はもう春を迎えたのではないか?と疑うほどに、柔らかな暖かさが迎えてくれたのである。

 

そしてようやく、極寒地獄から抜け出せたと安堵したのもつかの間、わたしの家がコンクリート製の冷蔵庫であることを思い出した。

 

ここ数日は、帰宅したらそのままの格好で過ごしているわたし。昨夜など、ジャケットのフードを被ったまま布団に潜り込むなど、室内が屋外と同じ状態なのだ。

他の居住者がどうやって過ごしているのかを調査したいくらい、このマンションの冷え込み具合いは常軌を逸している。

 

なかでも、膝下までの床に近い部分の寒さが尋常じゃない。ズボンと靴下を二枚、重ね履きしているにもかかわらず、ちょっとソファで横になるとつま先の冷たさで目が覚めるのだ。

そのため、上半身は分厚いジャケットとフードで防寒対策をしたうえで、胎児のように丸まると、足元に向けてセラミックヒーターの温風を当てる形で横になっている。

にもかかわらず、足先の冷たさで目が覚めたわたしは、起き上がる際に触れた鼻の冷たさに愕然としたのだ。

 

(なぜだ?真冬の外出着で室内にいるのに、さらに、エアコンとセラミックヒーターとダブルで室内を暖めているのに、なのになぜ、鼻の頭がこんなにも冷たいのだ?!)

 

冬が訪れる度に「寒い寒い」と、口癖のように言い過ぎているので、いい加減に慣れてほしい。さらに、口にしたところで変わらない現実なのだから、いい加減に諦めてもらいたい。

そんなことは分かっているのだが、どうしても口にせずにはいられないほど、日常生活に支障をきたすレベルの寒さに見舞われているのだ。

さすがに吐く息が白くはならないが、それでも防寒着を着用したまま横になったあげく、鼻の頭とつま先が冷たくなるなんてこと、どんなボロアパートに住んでいたって、エアコン完備の現代ならばあり得ないだろう。

 

それがなぜか、港区の一等地・白金のマンションで恒常的に発生するのだから納得がいかない。

 

(・・・そうか、ハンモックだ!)

 

突如、妙案を思いついた。膝下の低空域が寒いのだから、だったら上空で寝たらどうだろうか。

たしかに、両手を挙げてジャンプをすると、上空には暖かい空気が溜まっているのが確認できる。だったら、そこら辺で横になれば暖かい状態で眠りに就くことができるのではないか――。

 

さっそくネットでハンモックを検索する。おぉ、出てくる出てくる。ソロキャンプなどのブームも後押しして、ハンモックの需要も増えているようだ。

しかしどれも高さがない。ハンモックの底辺が最も高い商品ですら、床から80センチしか浮いていないので、そこへ寝たらさらに沈むだろう。これでは、上空の温風の恩恵を受けられない。

かといって、高さ2メートルの位置にハンモックを設置した場合、どうやってそこへ登ればいいのか。かつ、飛び乗るのに失敗した場合、2メートルの高さから床へ叩きつけられるわけで、シャレにならない。

 

(・・・ダメだ、今年の冬もこうやって凍えながら過ごすしかないのか)

 

わたしなりに色々と考えてきた。足元を温める暖房器具はいくつも購入したし、エアコンの掃除だって怠っていない。電気代の高騰にも愚痴一つこぼさず、ただひたすら、部屋を暖めるためだけに血眼になって暖房器具をフル稼働させてきた。

それなのになぜ、わたしの鼻の頭はこんなにも冷たいのか。

 

モコモコの防寒着のまま、ポンカンの皮をむしる。冷たい果実と凍える指先は、まさに真冬の風物詩である。

(あぁ、美味い・・・)

寒さに後押しされ、ポンカンを20個ほど食べたわたしの顔色は、肝機能障害の患者のようにまっ黄色に変色していた。

 

――それにしても、我が家でくつろぐことができないとは、なんたる仕打ちよ。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket