カッピー君の憂鬱 URABE/著

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あー、だりぃ。なんでこんな寒い日に、人間相手にサービスしなきゃなんねーんだよ。

こちとら「放浪カピ」で一世を風靡した、あのカッピー君だぞ?

せっかく前の飼い主から脱走して、晴れて自由の身になったっていうのに、まぁたこんなところで囲われちまって。

 

・・とはいえ、あの時はマジでやっちまったんだよなぁ。

4年前、隙を見計らって脱走したオレは、自由の象徴である「大海原」目指して旅を始めたんだ。

しかし、なかなか海にたどり着かないんで、茅ケ崎市の河川敷で作戦を練ることにした。

そしたらなんと、台風に二度も襲われたりしてな。だが持ち前の精神力と忍耐力で乗り切った後、再び海を目指して歩き出したんだ。

 

やがて季節は冬を迎えた。

草木は枯れて食い物に困ったオレの前に、ある日突然、美味そうなサツマイモが現れたんだ。

最初は警戒していたオレだが、食っても食っても翌日にはサツマイモが置かれてるんで、てっきり誰かが捨ててるんだと思ったんだよ。

 

フードロス削減のためにも「オレ様が一肌脱いでやろう!」と、毎日せっせと食い続けた結果、ある時、背後でガシャン!とシャッターの閉じる音がしたのさ。

・・そう、オレはいつしか罠の中へおびき寄せられてたんだ。

 

あれはイノシシの野郎の罠だ。たしかにオレと見た目は似ているかもしれないが、水かきはあってもオレ様に蹄はない。ブタの親戚なんて、まっぴらごめんだぜ。

しかも、よりによって「明けましておめでとう」の前日、大晦日なんかに捕まっちまったんだ。まったく、ついてねぇったらありゃしない。

 

それから一度は飼い主の元へ送還されたが、なんだかんだで今の棲みかである、平塚市総合公園「ふれあい動物園」で厄介になることになったんだ。

ここもまぁ広い檻みてぇなもんだが、オレ様のワンルームは暖房完備なんで、干し草のベッドに横たわればちっちゃな天国よ。

そもそもオレたちゃ南米生まれだから、日本のクソ寒い冬になんか適してないんだ。だからこそ、冬場はあったかい湯船と暖房でぬくぬくさせてもらわなきゃ、命の危機なんだぜ。

 

「あ、水中でおならした!ついでに、うんちまでした!!」

 

チッ、うるせーな。生理現象なんだから好きにさせてくれよ。

さっきからギャラリーが騒がしい。オレ様の屁やウンコで一喜一憂してるんだが、人間て奴らはよっぽど暇なのか?

他人の排泄を見て大喜びするとは、オレには理解できねぇ奇妙な生き物だぜ。

 

「うんちしたところの水を飲んでる!」

 

余計なこと言うんじゃねぇ、クソアマが!オレたちは新鮮な野菜や干し草しか食ってねぇから、ウンコだってそれなりにきれいなんだよ!

 

ちなみに、動物が食糞する仕組みを知ってるか?

消化発酵を助けるためとか、腸内細菌を補うためとか、それなりの目的があってやってる行為なんだ。だれも「ウンコが美味い!」と思って食ってるわけじゃねぇってことを、覚えておけよな。

 

(・・・お、きたきた)

――ワンッ!!

 

飼育員のねぇちゃんが、夕飯を運んでくる足音が聞こえた。

メシの時間にオレは決まって「ワンッ」と吠える。これには「早くしろ!」「待ちきれねぇぜ!」「オレ様はここだ!」とか、いろんな思いを込めて吠えてるんだ。

まぁとにかく、メシだけは特別ってことさ。

 

そうこうするうちに、本日のお勤め終了の時間がやってきた。

できれば一日中昼寝でもしていたいが、ここで世話になってる義理は果たさなきゃならねぇ。おまけに、飼育員のねぇちゃんも若くて美人だからな、オレが不愛想だと可哀想だろう。

だからこうして、アホな人間どもにキャアキャア言わせるためのパフォーマンスを、渋々披露してやってるんだ。

 

(さてと、マーキングでもして帰るか・・)

 

いつもの鉄柵にモリージョをコシコシやって、オレ様のテリトリーを誇示してから、さっさと部屋へと引き上げた。

ベッドメイキングも終わり、フワフワの干し草に横たわる・・とその前に、ちょいと食後のデザートとして、敷布団の干し草をハムハム。

 

(んーー、今夜もよく寝れそうだ!)

 

放浪の旅は、毎日がスリルの連続で刺激的だったが、動物園で世話になるものわるくない。

おまけに「カッピー」なんてダセェ名前まで付けられて、そういうキャラを演じるのも暇つぶしにはちょうどいい・・ってとこだな。

(了)

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