呪いの太鼓  URABE/著

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アタシは呪われている。なぜなら、気付くといつも「アノ音」に襲われるから。ほら、今だって遠くから聞こえてきた。

 

トントンツトトン、ツトトン、ツトトン

 

いよいよ限界。このままでは本当に気が狂ってしまう。あぁ、頭の中まで響いてくる!もういい加減にして!

 

 

なぜか社長の接待で、この寒い時期にゴルフ場へと連れて来られた。こんなの休日出勤よりひどい。会社なら暖房もきいているし、社長のご機嫌をとる必要もないんだから。

あ、ほらまた社長がダフッた。なんであんなに力むのかしら。普段から偉そうにしてるから、自然相手でもああやって力が入って地面を掘ってしまうんだわ。

ボールも地面も1ミリも動かない。なのに人間だけがドタバタ暴れたあげくに自滅する。こんなにも滑稽なことってあるかしら。

 

はぁ、ようやくグリーンにたどり着いた。アタシたち女性陣は変によくばらない分、淡々と確実に前進する。経理課のお局さまだってアタシと同じパーオンだもの。とにかく無欲で省エネが一番。こんなところで体力つかったって、一円の得にもならないんだから。

それに比べて社長ときたら、いくつ叩いたかしら?4,5…6オン!パー4のミドルホールで6オン!もう笑っちゃうわ。それなのに見てよあれ、どっかのプロゴルファーの真似して必死に芝目を読んでるじゃない。あんな長い距離、一回で入りっこないし、入ったところでトリプルボギーよ。もうどうでもいいから早く打ってほしいわ。

 

トントンツトトン、ツトトン、ツトトン

 

「キャッ!」

アタシは思わず叫んでしまった。よりによってこんな静寂と緊張が張り詰める状況で、アノ音が聞こえてくるなんて!そう、ちょうど社長がパットを打つ瞬間に、あの不気味な太鼓音が流れてきたの。そのせいで社長は空振りをした。

「キ、キミ!一体どういうつもりなんだね!!」

顔を真っ赤にしながら、パターをグリーンに叩きつける社長。そりゃそうよね、あれだけ真剣にグリーンを読んでいたのに、アノ音とアタシの悲鳴で台無しにされたんだから。

 

経理課のお局さまも、般若の形相でアタシをにらみつけている。厚化粧がより般若感をリアルに見せている、なんて茶化したら殺されるわね。それより社長の機嫌を損ねたとすれば、あと17ホールもあるのに地獄のような一日を過ごすことになるわ。

本当にごめんなさい、でも悪気はないの。むしろアタシだってこの呪いから解放されたいと願っているのよ。でも、どうしてもダメなの。お願い、だれか助けて――。

 

 

なぜか今、アタシたちは追われている。友人のサチコと二人で何者かに狙われている。誰に追われているのかよくわからないけど、とにかく見つかったら殺されるわ。

(なんでこんなことに巻き込まれなきゃならないのよ!アタシが悪いの?それともサチコなの?)

今はそんなことより、犯人に見つからないように隠れ続けることが優先。ここをやり過ごせばきっと助かるはず。そのためにも息をひそめて、絶対に見つかってはならない。

 

LINEでサチコが合図を送ってきた。どうやら犯人の背後に回りつつ、非常階段につながる出口の鍵を開ける作戦らしい。しかし気をつけなければならないのは、通過途中で一か所だけサチコが丸見えになる場所がある。あそこをうまく通り抜けられたら、アタシたちの脱出劇はフィナーレに近づく。

アタシはサチコへ犯人の動きを逐一LINEする。サチコは慎重に目的の場所へと近づく。とその時、犯人がサチコの動きに勘付いてしまった。

(まずい。サチコ、逃げて!)

アタシは素早くLINEを飛ばした。でももう無理、あと1メートルでサチコが隠れているソファにたどり着く。ゴメン、サチコ――。

 

トントンツトトン、ツトトン、ツトトン

 

やってしまった!またアノ音だ。今まさにソファを蹴り倒そうとしていた犯人が、ギョッとしながら振り向いた。そして静かにこちらへと近づいてくる。

その隙にサチコはドアの鍵を開け、アタシに向かってサムズアップをする。

(ち、ちがうのサチコ!これは呪いなの!アタシを置いて行かないで!)

ベッドの下に隠れていたアタシは、覗き込んだ男と目が合う。

 

「一体、どういうつもりなんだい?」

 

 

トントンツトトン、ツトトン、ツトトン

 

目を開けると、セットした時刻から二時間半が経過したにもかかわらず、まだ鳴り続けているアラームが聞こえる。

トントンツトトン、ツトトン、ツトトン

このアフリカの打楽器のような音色、本当に良くない。イライラするし、それでいて目が覚めないのだからアラームとして役に立っていない。

さらにこのスヌーズという機能、これにも問題がある。スヌーズに甘えて、何時間でも寝過ごしてしまう習慣がついたのだから。

(あー、イラつく)

午前の予定をほぼ無駄にしたアタシは、充電器からiPhoneを引っこ抜くと、ノソノソとベッドから這い出た。

 

(了)

サムネイル by 希鳳

 

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