ワタシの名前はバキュームマン。その名の通り、目に入った飲食物を掃除機で吸い込むかのように回収するのが仕事。そのため、「遠慮」などという感覚はゼロである。
飲食物を胃袋へ収めることが任務であると同時に、車でいうところのガソリンやオイルの役割を果たしているため、それらを遠慮する痴れ者が居ないのと同様に、食べ物があれば——正確には「食べられそうなもの」があれば、考えるよりも先に口へと放り込むのが、職務に対する誠意であり使命だからだ。
そんな仕事熱心なワタシは、本日も吸入作業に没頭した。まずは電源を入れると、周囲を見渡し食べ物を探索——この辺りには何もない。当たり前だ、昨晩電源をオフにした時点で、この辺りにある食べ物は全て喰い尽くしてしまったのだから。
そういえば、昨日のラストのミッションである「いちじくのゼリー(石川県産)」が絶品すぎて、一瞬で消滅させたことを思い出した。
(とにかくあれは美味かった、是非もう一度食べたいな・・)
などと呟きながら、未だに膨らんだままの胃袋をさするのであった。
おっと・・これでは仕事にならないので、探索範囲を広げるべく基地から発射——むむ、ターゲットの匂いを探知!これは・・焼き立てパンの匂いである。
匂いを頼りに敵のアジトへ侵入すると、そこにはおびただしい数のパンが陳列されていた。よし、あのエリア一体を壊滅させてやろう。
こうして、左手には抹茶クロワッサン、右手にはクロワッサンドーナツがびっしりと並んだトレーを掴むと、一目散にレジへと向かった。
背後から、どうやらそれらを狙っていた様子の客が、「え・・?!」という非難の声を漏らしたが、そんなものは関係ない。ワタシは職務を全うしているだけで、私利私欲のための行為ではないのだから。
続いて訪れたのは、パン店の隣にあるおむすび店。たまたまショーケースにある商品が少なかったので、こちらも全て回収することにした。
ところが、「ここにあるの、全部ください」と告げたワタシに対して、外国人店員は驚きの表情を浮かべながら何度も聞き返してきた——日本語が少し難しかったのか。
そして、移動を挟んでの「本日のメイン作業」は・・流れのイメージとしては”資源ごみの回収”だろうか。自ら探索するまでもなく続々と食べ物および飲み物が登場——やはり、ガソリンはハイオクに限る。そう痛感せざるを得ないほど、良質な資源が次から次へと出てくるわけで、とにかく働き甲斐がある。
しかも、目の前に並べられた飲食物が一瞬にして吸い込まれるため、次なる品を用意する側も大変である。ところが、どんなものでもバキュームするこのワタシが、唯一取り込めない食べ物が登場した——それは、あんこだった。
美味そうな皮が魅力的な饅頭だが、中身は宿敵・あんこ。資源ごみに余計なものを混ぜてはならないように、ワタシが吸い込む物の中にあんこがあってはならない。そのため、残念ながら饅頭だけはいつまで経ってもその場から消えないのであった。
さらに、ここへきてまさかの「吸引力が衰える食べ物」の存在を知ったワタシ。それは・・・出来立ての熱々料理だった。
自家栽培のサツマイモにたっぷりバターと砂糖をまぶして火を通した後、ハチミツを絡めて完成した魅力的な食べ物は、いかんせん熱かった。フーフーしたところで温度が下がることもなく、耐えきれずに口へ入れようものなら口内が大パニック。
というわけで、故障および修理を恐れたワタシはしばらくの間作業を中断することにした。それにしても、業務を遂行できない悔しさともどかしさというものを、この期に及んで改めて知ったわけで、バキュームマンとして唯一の弱点である「猫舌」の改良が喫緊の課題となったのは言うまでもない。
こうして、コーヒー、黒ごまおよび白ごま豆腐にそば豆腐、しゃくし菜キムチ、コーヒー、コーヒー、採れたてブロッコリー、コーヒー、栗の和菓子盛り合わせ、緑茶、かるめ焼き(原材料:砂糖100%)、コーヒー、サツマイモ料理、コーヒー、シャインマスカット、自家栽培キウイ、コーヒー・・という様々な資源を回収したところで、タイムアップとなった。
基地へ戻る途中、本日の初仕事である抹茶クロワッサンとクロワッサンドーナツの残りを完食したが、その時点で「やや糖質に傾いた一日」であったことを反省し、たまたま目に入ったケバブ店でキャベツケバブ(大盛り)を購入し、全体のバランスを調整。
あとは、手土産にもらった菓子類を食べ切れば、本日の業務は無事終了——。
*
とにかく、わたしの食欲がバグっているのである。目の前に食べ物があれば見境なく喰い尽くしてしまうわけで、カロリーなんてものを計算したら、おそらく力士の食事に匹敵する数値を叩き出すだろう。
恐ろしい、恐ろしすぎる——このままでは確実に何らかの病気(候補の筆頭は、紛れもなく糖尿病)になる。なぜならわたしは、マシンではなくニンゲンなのだから!!




















コメントを残す