遅刻の悪魔に取り憑かれし者たち

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この世には遅刻の神・・いや、遅刻の"悪魔"が存在するとわたしは信じている。なぜなら、これほどまでにニンゲンの足を引っ張ることができるのは、人智を超えた存在以外にはあり得ないからだ。

今日こそ遅刻するまい・・と余裕をもって家を出たというのに、そんなときに限って魔力によってわたしの足を引っ張るのだから、なんとも迷惑かつ恐ろしい悪魔である。

 

 

とある友人四人と待ち合わせをすると、決まってパターンが分かれる。それは、早めにスタンバイしている二人と、集合時間ギリギリあるいはやや遅刻の二人という区分だ。

もちろん、言うまでもなくわたしは後者なのだが、ありがたいことにもう一人がはわたしより遅いので、この待ち合わせにおいては上機嫌で最後の一人を待ち構えることができる。

 

そして今回、わたしは"自宅を7分早く出る"という暴挙に出た。とくに意味はなかったが、ギリギリで行動するよりも余裕をもって出かけるに越したことはないし、普段はタクシーに飛び乗るところを、バスを使うことで経費節約にもなる——というわけで、滅多に使わないバスの停留所へと向かった。

バス停にはすでに何人もの乗客が列を作っており、バスがまだ来ていないことを示している——当たり前だ。こちとら7分も早く家を出たのだから、(バスに)先に行かれてたまるものか。

 

だが、およそこの辺りから雲行きが怪しくなり始めた。定刻の某時45分を過ぎてもバズが現れないのである。

まぁバスというのは、道路の混雑状況に左右されやすい交通機関なわけで、多少の遅れは想定内。もしも、時間通りに移動したいのであれば地下鉄を使えばいいし、そんな神経質な輩はバスなど乗るべきではない——などと思いながらも、せっかく早く家を出たのに、ここでタイムロスとはなんと不運なことか、と己の運の細さにため息をつくのであった。

 

そして定刻から6分が経過した頃、ようやくバスが現れた。

 

わたしは今日、定刻通りに移動すれば待ち合わせ時刻の8分前に現着できるはずだった。だが「現着」とは建物の入り口に到着する時間であり、実際に待ち合わせの場所まではそこから数分を要することとなる。

・・・そう、これはほぼ遅刻が確定したことを意味するわけだ。

それでもわたしは諦めなかった。降車のバス停を降りると同時に赤信号を無視してダッシュをかまし、待ち合わせ時刻ギリギリに滑り込むことに成功したのである。そしてこの時点で、わたしは3番目の到着者となった。そう、残すはいつものアノ子だけ——。

 

「ごめんなさい~。自転車の充電ができてなくて、電車で来たら遅くなっちゃった」

はにかみながら謝罪をするラスト到着者は、お決まりのように遅刻の理由を説明した。なんと彼女、今日は30分前に到着するよう計画を立てていたのだそう。しかしながら、家を出ようとしたところで電動自転車の充電が足りないことに気付き、急遽、電車での移動に変更。ところが、普段使っている最寄り駅ではない路線であることを忘れており、ついいつもの駅へと向かってしまった結果、大変な遠回りを強いられたのだそう。

(・・・わかる、その不運な負の連鎖パターン!)

 

ところが、余裕をもって到着していた二人は共感する様子など微塵もない。

「ちゃんと前の日の夜に準備しておきなよ」

「一時間前に来るつもりで家を出なよ」

容赦ない"正論の矢"がラスト到着者へと突き刺さる。と同時に、間接的にわたしにも刺さる矢であった。

 

——そう、なぜか分からないが遅刻しないように準備をすればするほど、われわれは空回りするのだ。肩を持つわけではないが、遅刻常習犯の大半はわざと遅刻をしているわけではない。本人も遅刻しまいと策を練っているのだが、それらをことごとく何者かに阻止される。それこそが"遅刻の悪魔のチカラ"なのだ。

こうなると、どれほど事前準備を整えようが5分前行動を心がけようが、ニンゲンごときのちっぽけな存在では太刀打ちできない。悪魔が持つ強大な魔力によって、すべてなかったことに・・要するに、悪魔を祓うしか方法はないのである。

 

 

まぁ、悪魔に取り憑かれてるんじゃ仕方がない。そういう星の元に生まれた不幸を悔やみつつ、悪魔と共存するしかないわけだ——と、取り憑かれていない者の逆鱗に触れるような舐めた結論に落ち着くのであった。

 

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