ゴリラの餌に救われたニンゲン

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(どうせ私のリュックは、あっちへ弾かれるに決まってる・・)

毎回、確実に中身を調べられる私のリュックは、X線手荷物検査装置を潜り抜けた後に、まっすぐ進めば奇跡の解放、左へ流されれば中身を確認・・という岐路に立たされていた。

 

上方では緑のランプと黄色のランプが点灯している。普通に考えると、緑ならばベルトコンベアは真っ直ぐ進むだろうし、赤ならば左へ方向転換されると思われる。

そして黄色の場合は、検査員が目視にて入念にチェックするのだろう。その間わずか10秒程度だが、わたしにとってはとてつもなく長く感じるわけで。

あぁ、悪事を働いたわけでもないのに、なぜ犯罪者のような心境になるのだろうか——。

 

そもそも、荷物を毎回チェックされる原因はハサミにある。

なぜハサミがリュックに入っているかというと、機内でハイジャックに遭遇した際、このハサミを使って・・などと考えているわけではない。ただ単に、テーピングを切るために入れているだけだ。

 

ちなみに、百均で購入したこのハサミは、実際には機内持ち込みができるギリギリのサイズである。

毎回、係員が定規をハサミに当てながら、やれ一ミリ長いだなんだと議論しているが、既製品のハサミの刃の長さなんて、ほぼ同じだろう。

ましてや、百均で売っているような至って普通のハサミが、特殊な型を使って打ち抜いている(あるいはレーザーカットしている)とは思えないわけで、わずか一ミリにそこまで目くじら立てることもなかろうに。

 

以前、とある新米係員のネェちゃんが、ハサミの支点のど真ん中からではなく、支点のネジの端に定規を当てて測ったことがあった。

当然、中心部分から測るよりも若干距離が出るわけで、「刃の部分が一ミリ長いので、持ち込むことはできません」と言われた。そこで、「だって、中心から測ってないじゃん」と指摘し、自分で測り直したことがある。

こんなことなら、持ち込めるハサミの長さをもう一ミリ伸ばせばいいのに・・と思ったりもするが、何はともあれ毎回こうなるのであった。

 

わたしもわたしで、こうなることが分かっているのだから、別のハサミを買い直せばいいじゃないか。

そもそも百均で買ったのだから、もうすでに100円の価値は十分に堪能したはずである。だったらお役御免で、新たなハサミを買い直せば——。

とツッコミつつも、滅多に国内線など乗らないわたしは、ついついこのことを忘れて保安検査場へ突入してしまうのであった。

 

・・そんなことを思いながら、どうせ弾かれるであろうリュックを眺めていたところ、なんと、真っすぐ進んできたではないか!!

もちろん、中には例のハサミが入っている。ところがなぜか、今回は見逃されたのだ。いや、認められたのだ——。

 

にわかに信じられないわたしは、リュックを取り上げるとすぐさま中身を確認した。・・やはりハサミは入っている。

しかしそれ以上に驚いたのは、わたしのリュックの中身があまりに動物・・いや、ゴリラの食べ物で埋まっていたことだ。

 

えっと・・バナナが一房、リンゴが3個、そして焼き芋が4本入っているではないか。

 

認めたくはないが、リュックの重さのほとんどがゴリラの餌なのだ。

なぜなら、スーパーの店頭でまだ若いバナナを見つけたわたしは、すぐさま手に取りレジへと向かった。その途中で、立派なリンゴが陳列されていたので、とりあえず三つほど抱いて歩を進めたところ、その先には偶然にも焼き芋が売られていた。

サツマイモ好きのわたしとしては、このチャンスを逃すわけにはいかない。というわけで、4本の太い焼き芋を脇に抱えてレジに並んだのであった。

 

こうして、動物の餌をリュックに忍ばせたニンゲン・・という構図が完成したのである。

 

(大量の果物とサツマイモをリュックで運ぶ・・つまり、動物にエサを与える奴に、悪者はいないってことか)

 

 

無駄に足止めをくらうことなく、すんなり通過させてもらったわたしは、気分よくバナナを食べ始めたのであった。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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