(ヤバイ、友人が死ぬかもしれない)
わたしは今日、管楽器の演奏というものは命懸けであることを知った。
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サックスは金属でできているにもかかわらず、木管楽器に分類される。なぜか。
「サックスも昔は木でできていた!」
大外れ。
金管楽器か木管楽器かの違いは、音の出し方による。
金属製のマウスピースに口を押し当て、唇を振動させる方法で音を出す管楽器を「金管楽器」と呼ぶ。
そして、それ以外の方法で音を出す管楽器は「木管楽器」に分類される。
金管楽器はトランペットやトロンボーン、ホルンなどが代表的。意外なところで法螺貝(ほらがい)も金管楽器の仲間だ。
これ以外の管楽器は全て木管楽器となり、サックスやフルート、クラリネット、リコーダーなどが該当する。
サックスやクラリネットは「リード」と呼ばれる、ガムくらいの大きさの薄っぺらい板を振動させて音をだす。
これに対してフルートには、このようなリードは付いていない。
なのになぜ木管楽器かというと、唇をリードに見立てた「エアリード」により、吹き口の角に空気を当てて音を出しているからだ。
昔、飲み終わったコーラのビンを、縦笛のようにボーボーと吹いた経験のある人は多いと思うが、あれと同じ要領だ。
とにかく音を出すときに、おちょぼ口にした唇を震わせる以外は、すべて木管楽器となる。
いずれにせよ、管楽器を演奏するということは息を吹き続ける行為であり、少なからず命の危険性を感じる。
オーケストラや吹奏楽のように、指揮者の指示で他の楽器と揃える演奏ならばまだしも、ジャズやブルースはその独特なリズムや曲調に特徴があるため、どう考えても貧血と隣り合わせとなる。
つまり友人は、命がけでサックスを演奏するということだ。
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天才アルトサックス奏者として有名な、デヴィッド・サンボーンをこよなく愛する友人は、本日のライブで彼のカバー曲を披露してくれた。
ジャンル的にはジャズ・フュージョンだろうか。しっとり聞かせる曲もあれば、パンチの効いたファンキーなスイングもある。
しかしステージの真ん前で聴き入るわたしは、彼女の息が続きすぎることへの不安を隠せずにはいられなかった。
ーーあれだけ強い圧力の空気を送り続けるなんて、絶対に貧血になってしまう。
こんな時こそ自慢のフィジカルを活かすべきだ。もし彼女が倒れたら、いや、倒れそうになったら、すぐさまスライディングでサックスをキャッチしつつ、後頭部と床の隙間へつま先を差し込もう。
雰囲気たっぷりにサックスを鳴らす友人は、もう少しで後ろへひっくり返るんじゃないかと思うほど体を反らせる。
かと思えば、前へつんのめるんじゃないかと思うほど体を前傾させる。
そのたびにわたしは冷や冷やしながら見守った。
アルコールも入り、ちょうどいい感じに仕上がってきたライブ中盤。MCもこなす彼女は、結婚式の披露宴をパクった「乾杯の音頭」で会場を沸かせる。
(そうだ。ここでゆっくり呼吸を整えてくれ)
大爆笑の観客とは裏腹に、わたしはとにかく友人の呼吸と血流を労った。
演奏はまだ続く。なんとか最後までやり遂げてほしいーー。
ジョッキのビールを飲み干した彼女は、すぐさま颯爽とマウスピースをくわえた。
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当然ながら、酸欠で倒れるなどというアクシデントもなく、ライブは無事終了。
しかしサックスってやつは、あれほど圧力のかかった息を楽器へ送り込むわけで、現実的に酸欠になるプレーヤーがいてもおかしくはない。
それに比べるとピアノなど楽なもんだ。クッション付きの椅子に腰かけ、楽な姿勢で鍵盤を叩いていればいいのだから。
そして何よりも、ライブ後のセッションで炸裂した彼女の「こぶし」が最高だった。
曲名は石川さゆりの代名詞である、津軽海峡・冬景色。
「イントロで奏でるサックスの、場末感満載の節回しが、今日一番の感動だった!」
なんて、絶対に言えない。
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