頭部強打による脳挫傷・・を免れたシロガネーゼ

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ヒトの命というのは、いつどこで終わるのか分からない・・ということを、改めて強く思い知らされる瞬間に遭遇した。

（当たり前に明日が来るなんて、思っちゃだめだ・・・）

＊

わが家は、見た目重視のオシャレマンションであるため、風呂場はガラスで覆われている。おまけに、そのガラスドアがたまに落ちる（足の上に落ちたら、指は切断されるだろう）ため、常に開けっ放しにしているのだ。

よって、リビングからもベッドからも風呂場が丸見え！という、ヨーロッパ風（？）の作りなのだ。

そんな透け透けの風呂場と隣接するように洗濯機と洗面台があり、もちろんそこにもドアは存在しない。そして洗濯機と洗面台から一歩リビングに踏み込んだ壁に、つっかえ棒を張って洗濯物を干す空間を確保しているのだが、事件はその＂狭い空間＂で起きた。

洗濯機を取り囲むように設置された棚にスマホを載せて、ネットフリックスでアニメを流しながら気分よく洗濯物を干していたわたし。そしてアニメに夢中になるあまり、洗濯機の前からなるべく体を動かさないように、手足を伸ばして衣服をつっかえ棒に引っ掛けていた。

まぁ、洗濯物を干すのに真剣になる必要はない。それこそ＂ながら作業＂で十分だ——。

そんなことを思いながら、壁際にハンガーを引っかけて戻ろうとした瞬間、わたしは後頭部から側頭部にかけて、鈍器で思いっきり殴られた。

（イッテェェェ！！！！！）

殺人事件の第一歩は、鈍器で頭部を殴打されるのがセオリーである。もちろん、わたしがそういった暴行を受けたことはないが、まさかここへ来て実現してしまうとは。

それにしても、今わたしは自宅で一人のはず。いくら玄関の鍵が開いているからといって、部屋の最深部・・いわゆる行き止まりの風呂場から、誰かが現れるとは到底考えられない。

だが確実にわたしの頭部および左耳と左頬が、もの凄い力で何者かによって殴打されたのだ。その証拠に、わたしは床に倒れ込んでいるのだから——。

何が起きたのか、その瞬間には理解できなかった。しかし、すぐに状況が把握できた——そう、アニメの続きが気になるあまり、わたしは全速力で後ずさりすると同時に振り返ってしまったのだ。

その結果、洗濯機と洗面台の空間とリビングを隔てる壁に、思いっきり頭部を激突させたのである。

まさかこれほど凄い音がするとは思わなかったし、軽く脳震盪（のうしんとう）を起こすとも思わなかった。そのくらい、単細胞かつ視野の狭いわたしは、壁の存在をすっかり忘れていたのだ。

頭蓋骨の陥没もないし、意識障害も起きていない——助かった。

身体に支障が出ていないからよかったものの、運が悪ければ今頃あの世だったかもしれない。だが、もしもそんなことになっていたら、ちょっと恥ずかしいじゃないか・・。

死亡の原因は「頭部を強打したことによる脳挫傷」だが、第三者はおらず自作自演で打ち抜いたとバレれば、「なぜここまで全力で頭を強打できたのか？」となるだろう。

なんせ、自分の頭を壁に打ちつける行為を、躊躇なく実践できる人間はいない。通常は、自動車など高スピードの金属の塊とぶつかることで脳挫傷となるわけだが、それを自分でやってのけたとなると、よほど現世に悩みや恨みがあったとしか思えない。

となると、わたしは相当な悩みを抱える＂闇深き独身中年女性＂として報道されるに違いない。さらに、死人に口なしをいいことに「借金まみれだった」「5股不倫をしていた」「裏社会とつながっていた」などなど、あらぬ疑いをかけられるに違いない——。

（マジで死ななくてよかった・・・）

身辺整理もままならぬうちに、うっかりあの世へ行ってしまっては死に損である。せめて一度くらいは結婚してみたいし、どうせならガスタのチーズケーキをホール食いしてからこの世を去りたい。

叶わぬ夢も含めて、アレコレ欲が湧いてくる・・・そうだ、こんなところでくだばってはいられない！

＊

それにしても、まさかの「頭部強打事件」だったわけで、人生がいつ終わるのかなど、分かったもんじゃない・・ということを、身をもって思い知ったのである。

Illustrated by 希鳳

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