労働相談の根底にあるもの

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わたしが最も「仕事をしている」と感じる瞬間は、社長から相談を受けるときだ。

顧問社労士なのだから、顧問先で起きている労働問題について相談を受けるのは当たり前のことだが、そういう相談だけでなく、社長が抱えるヒトとしての不安や心細さを、ちょっとだけもらい受けたときに、「この仕事をしていてよかった」と思うのだ。

 

多くの場合、相談の皮切りは労働者に関することだが、その先というか根底には、ニンゲンという複雑で面倒な存在への恐怖心のようなものがある。なんせ我々ニンゲンは、一筋縄では支配できない生き物だ。モノやカネのように、きれいさっぱりケリをつけられたらいいのだが、残念ながらそれを阻止する「ココロ」が存在するからだ。

 

ニンゲンは、誰しもが粘着質で執念深い性質を持っている。一見、穏やかな表情をしていても、内心では腸が煮えくり返るほど殺気立っているわけで、それこそがニンゲンたる所以といえる。

とくに、契約で支配される関係においては「契約だから」では納得できない壁がある。身近なところでいえば、結婚がその典型だろう。血のつながりのない赤の他人が出会い、いつしか恋に落ち・・いや、恋に落ちなくても契約書にサインすることで、夫婦という関係を成立させて二人で人生を歩むのだから。

 

そして、生まれも育ちも生活習慣も異なる他人同士が、ひとつ屋根の下で共同生活を送るのだから、そりゃ上手くいくはずもない。

トイレの蓋を閉める閉めない、食事の味付けや見たいテレビ番組が違う、起床・就寝時刻が合わないなどなど、どちらかが我慢をするか相手に合わせなければ、夫婦生活が破綻するわけで。

 

ところが一歩外へ出れば、今度は会社と契約を結んだ労働者となり、社内ルールに従いながら歯車の一つとしてせっせと働かなければならない。とはいえ、こちらのほうがまだ「他人」を強く意識するため、理不尽な対応や要求を突きつけられても、表面上は聞き分けの良い"従順な社員"を装うことができる。

そうはいっても、役割は違えど一人のニンゲンであることに変わりはないため、我慢の限界がくれば爆発するのは時間の問題。その原因が、プライベートであろうが仕事であろうが、溜まる器は同じであり使い分けることなどできない。

よって、目に見えないストレスが少しずつ溜まった結果、逃げることのできない家庭ではなく、他人の敷地である"会社"に爆弾を仕掛けて逃走するのである。

 

そんなとばっちりも含めた「労働相談」を聞いていると、法律上はどうとか一般的にはこうだとか、そんな話は上澄み程度の軽さなのだと実感する。最終的に現れたトラブルは、労働者個人の性格や習慣に起因するもので、そこまで受容した上で他の従業員との調和を図るのは、考えただけでも至難の業。

だからといって、関係のこじれた恋人や友達と距離を置く・・というような選択肢がないのが、昭和の産物・労働法で縛られた牢屋・・いや、会社の辛いところ。いくら「仕事さえやってくれれば、その他は気にしない」などといったところで、それをこなすのはニンゲンなのだから。

つまり、その根底にはロジカルに処理できない執着心のようなものがある・・というわけだ。

 

「言い方が気に入らない、パワハラだ」

「タバコ臭い、スメハラだ」

「押しつけがましい、モラハラだ」

 

たしかに、なんちゃらハラスメントに該当する行為ではあるが、最終的にハラスメントに当てはめただけで、その手前にはヒトとしての好き嫌いがあることが多い。いや、圧倒的に"好き嫌いの壁"によって導かれたハラスメントなのだ。

(こんなことなら、顔を突き合わせないで仕事するほうが、うまくいくんじゃ・・・)

 

さらに、接客サービス業においてチームワークは重要であり、にもかかわらず性格が合わないメンバー構成だったりすると、せっかくのサービスも質の悪いものとなってしまう。

——そんな答えの出ない悩みを聞くのが、顧問社労士としてのわたしの仕事なのだ。

 

ニンゲンというのは、すぐに問題を解決できなくても、悩みや愚痴を聞いてもらうことでラクになったり元気が出たりするもの。すなわち、リーダーのメンタルが安定すれば、チーム全体のバランスも良くなる。ならば、その悩みをわたしがもらい受けることで貢献できるのでは——。

というわけで、労働相談からの社長個人の人生相談まで、ネガティブな悩みの吐出先として、わたしが君臨するのである。おまけに、士業者として守秘義務があるため、相談内容は安全に保管されるという特典付き。

 

 

こうして今日も、社長の愚痴を聞いてはウンウン頷くわたし。そう、顧問先の無茶・無理・無謀を受け止め、なだめたりアドバイスしたりするのが、わたしの誇るべき"仕事"なのである。

 

Illustrated by 希鳳

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