ヒトというのは何か見えない糸で繋がっているような、そして、それを手繰り寄せられたかのような出会いをする。
たまたまのタイミングで紹介された日本料理店の主と話をしたところ、「労働者を雇用するならば、ちゃんとした管理をしていきたい」ということで、今月から労務顧問を引き受けることとなったわたし。その矢先に、通勤途中の転倒により労災(通勤災害)の申請が必要となった。
しかも、本日が出勤初日・・ということで、労働者の到着を今か今かと待っていたところ、まさかの欠勤。要するに、出勤0日目どころか労働時間0分にして労災(通災)申請を行う、という珍しい事態となったのだ。
実のところ書類上の顧問契約は未締結ではあったが、それよりも通勤災害の対応をするのが先決。ましてや、店史上初となる労災適用ということで、店主にしてみれば何をどうすればいいのか困惑するのは当然のこと。
とはいえ、こちらとしては通勤災害などお手の物なので、粛々と情報を集めて様式を完成させるだけのことだが、ここで一つ大きな問題があった。それは、これまで労働保険や雇用保険の手続きを委託していた事務組合から、店が個別で管理をするための"変更の手続き"が済んでいないことだった。
正確には、事務組合からの「事務委託解除通知書」の到着を待っていたが、先方がいつ委託解除の手続きをした(もしくはする)のか分からないため、とりあえずは待機・・という感じだったのだ。
これの何が問題かというと、今までは事務組合由来の労働保険番号で管理されていたわけだが、今後は店舗ごとに労働保険番号を取得する必要があり、新たな労働保険番号を付番する際には前出の「労働保険事務組合委託解除通知書」が必要となる。
つまり、委託解除通知書がないと新たな労働保険番号の取得ができない・・延いては、通勤災害の申請をしたくても、労働保険番号が未付番では書類作成すらできないという状況なのだ。
だが、ここで怯んでは社労士が廃る。すぐさま労働保険成立届を電子申請したが、その際に事務組合から個別への移行途中であることと、さらに通勤災害発生のタイミングであることを綴った手紙を添付して、返戻覚悟で祈るように送信ボタンをクリック。
この時点でもうすでに役所は閉庁していたため、明日の朝イチで電話をしてみよう・・ということで、翌朝の9時過ぎにパソコンを開いたわたしは、電子申請の画面で「コメント」のタブが現れていることに気がついた——なんだろう、嫌な予感というか微妙な空気を感じる。
「労働保険番号は、13100ー999999ー000です」
なんと、事情はあれど書類不備の状態にもかかわらず、先に付番をしてくれたのだ。役所というのは頭が固くて融通の効かない人間の集まりだと思っていたが、状況を理解した上で優先的に処理をしてくれたのだとすると、こんなありがたいことはない。
しかも、昨日の今日でこの速さ——にわかに信じられない。
いずれにせよ、まさかの労働保険番号を手に入れたわけで、さっそく通勤災害の書類となる様式16号を作り始めたわけだが、ここでもまたひとつ、ちょっとしたイレギュラーが発生。それは、受診した医療機関が三つあることだった。
実際には珍しいことではなく、複数の医療機関を受診したり初診の病院から転院したりすることはあるが、今回は出勤0日の通勤災害である上に、初診の病院・画像診断専門クリニック・手術を行う病院という、三カ所の医療機関の受診があったため、書類も三カ所分作成しなければならなかった。なんというか、重なる時は重なるものなのだ。
(もしも、社労士抜きでこれらの手続きを行うとなれば、本業の合間にやれるほど簡単なことじゃないだろうな・・・)
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通勤災害の書類作成の傍ら、労働保険概算保険料の申告や雇用保険適用事業所の変更届、はたまた雇用保険被保険者資格取得の申請など、やるべき作業は他にもある。
それでも、思い返せばいろいろな偶然が重なった結果、必然的にわたしが招かれた気がしてならない。たまたま紹介されてとりあえず顧問契約を結んで、その数日後に、労働保険番号が未付番の状態で初出勤の途中で労働者が怪我をして・・やはり、出会うべくして出会ったのだろう。
そんな折に届いた、「(今回の出会いが)奇跡の出会いとなりました、ありがとうございます」というメッセージこそが、社労士という仕事をやっていてよかった・・と、心底思える対価なのであった。
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