生きた化石/最低賃金の減額の特例許可のナゾ

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「最低賃金」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

給与をもらう労働者は必ずチェックすべき金額で、2種類の最低賃金が設定されている。

 

一つは、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」で、これが一般的なやつだ。

もう一つは、特定の産業を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」というやつで、一般的な最低賃金よりも高い金額で定められている。

 

例えば、東京都の最低賃金は2019年に1,013円となり、千円の大台を突破してからは高止まりしている。コロナ騒動もあったので、これ以上金額を上げることなどできるはずもないが。

 

そして最低賃金について定める最低賃金法第7条には「最低賃金の減額の特例」というものがあり、都道府県労働局長の許可を受けたときは、一定額を減額した金額を最低賃金とすることができる。

 

この対象となる人はどんな人かというと、

・精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者(最賃法第7条第1号)

・試の使用期間中の者(最賃法第7条第2号)

・基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者(最賃法第7条第3号)

・軽易な業務に従事する者(最賃法第7条第4号)

・断続的労働に従事する者(最賃法第7条第4号)

 

まぁ、小難しくてどんな人なのかわからない。わからないというか、誤解を生む恐れがあるので字面だけで判断するのは危険。

 

例えば「軽易な業務」とはどのようなものか。趣旨としては、

「『軽易な業務に従事する』労働者とは、一般労働者の従事する業務と比較して特に軽易な業務に従事する者のこと(出典/最低賃金法第7条の減額の特例許可事務マニュアルp30)

と記されている。

ハイハイ、よくわからない。

 

簡単に言うと、「物の片付け」や「清掃」などの超簡単な仕事を規制を受けずに行う人で、かつ、職場でその超簡単な仕事に就く人がほとんどいない場合に、その超簡単な仕事をする人に適用される。

イメージしにくいだろう、当たり前だ。今のご時世、そのような業務を用意している企業など、ないからだ。

 

面白い判例を見つけた。

配送業者が国に対して、最低賃金の減額許可をしない旨の取り消しを求める裁判を起こし、棄却された(東京地判令2・12・24)。

 

この事件で、最低賃金の減額の特例を適用させようとした「軽易な業務に従事する者」とは、どのような人だったのか。

それは、家具の配送をするトラックに同乗し、作業員らが運搬作業中は車に残り、駐車違反の取締りをされそうになったら作業員へ連絡をする、という仕事の人だ。

 

一見、トラックの中でふんぞり返っていればいいだけの、楽な仕事に感じる。もしも駐禁の監視員がコンコンとノックしてきたら、すぐさまドライバーに連絡をして車を移動させればいいわけで。

 

だが裁判所はそれを許さなかった。

「それ相応の精神的緊張の下に置かれ、刻々と変化する状況に応じて、的確に判断、行動することが求められている(中略)。一般労働者との比較においても軽易であるということができない。」

 

・・・なるほど。

とにかく、路駐したトラックに残って駐禁対策をする仕事は、軽易な業務ではないということだ。

 

 

減額対象者として個人的に「ナゾ」なのが、「試の使用期間中の者」という人だ。

 

ツッコミどころ満載のこの「人」の条件について、東京労働局の賃金課へ尋ねた。

「資料によると『その業種が低額に定められる慣行が存在するなど、合理性があること』となっていますね。少なくとも私は、そのような許可申請を受けたことも、許可があったという話も聞いたことはありませんが」

 

・・・だろうね。

 

そして面白いのが、厚生労働省が公開している許可申請書の記入要領にある、「従事させようとする業務の種類」の記入例だ。

 

「間伐材による割り箸製造の業務」

 

わたしはしばらく考えた。間伐材から割り箸を作ることが、どれほど「合理的に低額とみなされる作業」なのか。

むしろ今では自動で作られているだろうから、この記入例はあってないようなものだが。

 

さらに「最低賃金法第7条の減額の特例許可事務マニュアルp42」によると、具体的な記載例として

「道路、体育館等においてラインを引く作業」

と書かれている。

 

ここでもわたしは引っかかった。

道路のラインを引く作業がどれほど難しく、職人技と言えるのか分かってないーー。

 

道路の白線は、白い粉(塗料)を200度の熱で溶かして液体化し、それを塗布・固形化することでペイントされる。つまり、高熱のタンクと共に移動しながら線を引くわけで、緊張や危険を伴う。

 

さらに「真っすぐラインを引くこと」が簡単なはずがない。

昔、グラウンドに白線を引く手伝いをしたことがあるが、目印のロープがあるにもかかわらず、振り返るとガタガタの直線ができていた。

 

あれは一種の職人芸と言える。

 

 

と、あくまで「記入例」であり現実ではケースバイケースとなる部分に噛みついてみた。

 

結局のところ「最低賃金減額の許可申請」は、申請後に監督署の調査があり、その結果を元に労働局長が判断をする。

そして「試の使用期間中の者」への許可は、今のご時世ではほぼ認められない。

 

企業にとっても、そんな単純作業をさせるためだけに、あえて試用期間などを設けること自体がムダだろう。

とは言え、一度作られた法律(条文、条項)はそう簡単には消せない。

 

昭和34年(1959年)に制定された最低賃金法。

令和の今もなお、「生きた化石」として存在感を示している。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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