コロナの頃

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社労士の仕事として、今年に入ってからの相談件数第一位は、

「従業員が濃厚接触者に。これって何かお金はもらえますか?」

というものだ。まぁ普通に考えて新型コロナに感染あるいはPCR検査で陽性、または陰性でも自宅待機を強いられてカネがもらえるのならば、私も是非とも濃厚接触者になりたい。

 

若干、勘違いをしている人が多いので断言しておくが、コロナになったら無条件に金がもらえる、なんてことはありえない。本来、仕事でもらえるべき給与がもらえなくなった分を、誰かが何かの形で補填してくれるだけのことだ。

有名な制度として「雇用調整助成金」が挙げられる。特例に次ぐ特例でとんでもないことになっているが、とりあえずは、

「新型コロナの影響で事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、従業員を解雇せず休業手当を支給した場合に、その一部を助成するもの」

といった感じ。売上高の30%減や、「緊急事態宣言」または「まん延防止等重点措置」の対象区域の企業に対しては、休業手当の100%を助成するなどの特例もある。

だが基本的には休業手当の全額ではなく、8割から9割が助成される制度。

 

そして一つ忘れてはならない条件がある。それは、

「新型コロナの影響で経営環境が悪化し、事業活動が縮小していること」

という部分。具体的には、昨年または一昨年の同月と比較して5%以上減少している必要がある。今はまだ、ギリギリ2年前ならばコロナの影響を受けていない企業もあるだろう。だがこの先、コロナ騒動で世の中がめちゃくちゃになった2年前が、最もダメージを受けた企業がほとんどとなるはず。そうなると「5%以上減少」という条件を満たせなくなる可能性が増える。

そしてこの「5%」の部分については、間違いなく特例は発令されない。

 

なぜこんなことをわざわざ引っ張り出すかというと、今日相談のあった企業はコロナ禍でも地道に事業を継続した結果、2年前から現在までのどこの月と比較しても今が一番売り上げていた。そして従業員が濃厚接触者となり、PCR検査は陰性。会社が自宅待機を命じて休業手当を払えば、雇用調整助成金の対象になるか?という質問をされたのだ。

残念ながら、雇用調整助成金を受給することはできない。

売上が増えているのに国が補填しなくてもいいだろう、ということだ。

 

しかし個人的には、原則の雇用調整助成金とコロナ禍におけるそれとは別物だと思う。会社は出勤してほしいのに、都道府県の命令で自宅待機を強いられた現場労働者は、リモートでは仕事ができない。ましてや2月1日入社の場合、有休も発生していない。当然、休んだ分は給与から引かれてしまう。

これがまだ、PCR検査で陽性ならばいい。健康保険加入者は「傷病手当金」の申請ができるため、全額とはいかないが多少の補填となるからだ。だが陰性の場合は最悪。会社からの休業命令なく休んだ場合は、欠勤控除となるわけで。

なんともモヤモヤするが、これが「規則」なので仕方がない。

 

 

もう一つ、これも曖昧な線引きに感じたケースがある。前出の雇用調整助成金が休業手当の補填であるのに対し、感染経路が業務上である場合に「コロナ感染者を労災給付の対象にする」というものがある。

医師、看護師、介護職員らはほぼ無条件で対象となるが、その他にも小売店、飲食店などで不特定多数の顧客と対面接客をする労働者に対して、感染経路が不明であっても業務上感染した蓋然性が高い場合に、労災給付の支給決定がなされる。

認定事例からざっくりまとめると、

「事業所や店舗でクラスターが発生した場合は、業務に内在する感染源によるものとみなし、業務上災害として扱う」

とされている。また製造業や建設業、宿泊業、飲食サービス業などでも、私生活における感染リスクが非常に低い状況であったと認められた場合は、労災給付の支給が決定している。

 

言うまでもないが、私生活など業務外で感染したことが明らかな場合は、労災認定はされない。

 

この例に従い、飲食店勤務のスタッフがコロナに感染し10日間休業した件につき、東京労働局へ確認をした。

「店舗でクラスターが発生したとか、そういった場合は業務上感染した蓋然性が高いですけどね。審査は監督署なんで」

まぁその通りだ。続いて管轄の労働基準監督署へ架電。すると電話に出た職員では判断ができないとのことで、上司に確認をしてもらった。

「クラスターは発生していないが、労働者本人から『業務上感染した』という申し出がある場合は、労災として審査させていただきます」

なるほど。確かに調査のしようもないわけで、当事者からの「申し出」に頼るしかないだろう。今回の対象者が勤務する店舗では、スタッフ全員がPCR検査を行った結果、陽性者はゼロ。さらに同居家族も全員陰性だったため、「多分」接客中の感染だろうということで決着した。

だがこんなことは証明のしようもないわけで、それ以上追及されたら被災者も監督署も困ってしまう。

 

ちなみにこのスタッフは、労災認定されなければ傷病手当金の申請ができる立場のため、そこまで本人に不利益はない。また、コロナに関する休業に関しては国保でも「国民健康保険傷病手当金」が誕生し、4日以上休んだ場合の4日目以降の休業を対象に申請ができる、セーフティーネットが用意された。

現状、PCR陽性=感染者という扱いになっているので、症状が軽くても労災や傷病手当金の対象となる。だが繰り返しになるが、PCR陰性の濃厚接触者は最悪だ。使いたくもない有休を無理矢理使うしかないし、入社から6か月経過していなければ普通に無給となる。ノーワークノーペイの原則は、覆すことのできないルールだからだ。

 

 

まだしばらくは混沌とした海をさまようことになるが、人生の一部でこんな劇的な一幕を体験できることなど数百年に一度のこと。ただ恐れて立ち止まるのではなく、酸いも甘いも噛みしめながら進むべきだと私は考える。

人生という舞台は一度きり。己の人生における主人公であることを忘れてはならないし、誰かの舞台に立ってるわけじゃない!という責任を果たさなければならない。

 

そのためには、思考を止めないことと行動し続けることが重要。なぜなら動きのない舞台など魅力はないわけで、観客はそっと席を立つだろう。そんなつまらない舞台しか作れないのならば、私は自ら進んで降板する。

 

サムネイル by 希鳳

 

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