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私は重症患者でもなんでもないが、日曜日ゆえ救急診療をやっている病院へ行くしかなった。
某病院内の救急搬送エリアには、簡易ベッドが5つほど並べられており、薄っぺらいカーテンで仕切られている。
「ここでお待ちください」
看護師に真ん中のベッドへと案内された。
そこに座ると、パルスオキシメーター(脈拍・血中酸素濃度計)と血圧計を巻かれ、ソルラクトを点滴された。
「楽にしててくださいね」
と優しく言われ、しばし放置。
モニターにいろいろな数値が映し出される。
血圧は収縮期で97、拡張期で60。
脈拍は59。
全体的に数字が少ない気はするが、まぁいいだろう。
しばらくすると周囲がにわかに慌ただしくなった。
突如、救急搬送の入り口からストレッチャーが運び込まれた。
救急隊員が病院側へ申し送りをしている。
その間、女性の鳴き声と嗚咽が響く。
私の右側のベッドにその女性は移された。
看護師やドクターの励ましの声がする。
1、2、3・・・
何かをしている。
「●●さんお名前言えますかぁ?」
付き添いの子供が泣き叫ぶ。
よく医療現場の番組で見る光景が、繰り広げられている模様。
その時点で、私の心拍数は59から77へ上がった。
同時にモニターの波形も、ダイナミックに動き始めた。
次に、私の左側へ男性患者が運び込まれた。
「××さん、聞こえますかー?わかりますかー?」
「ダメだ、〇〇持ってきて!!」
「1、2、3・・・もう一度!1、2、3・・・」
左の男性は何かを嘔吐した。
看護師たちが、入れ替わり立ち替わりで何かを剥がしている。
ピッピッピッ、ピーーーーーーーーーーーーーーーーー
(いやいやいや、嘘だろ?!)
なんの音かわからないが、医療ドラマでみる心肺停止の音ではなかろうか?
そんなはずはないだろう、そうじゃないと言ってくれ。
この時点で私の心拍数は100を超えた。
先ほど看護師は、
「楽にしててくださいね」
と言った。
この状況で「楽にする」とは、何をどうすればいいのだろうか。
手にはぐっしょりと汗をかき、健康な部分まで不健康になりつつあった。
そこへ別の看護師がやってきた。
「脳のCT撮りましょう」
私はCT検査室へと連れて行かれた。
検査室のこの静かで平和な感じは、なんだろう。
もう私のことはいいから、優先順位の高いあちらの方々をどうにかしてあげてください、と心から願った。
CT撮影後、再びベッドに戻されCTと血液検査の結果を待った。
待っている間も続々と急患が運び込まれる。
高齢のおばあちゃんは、お孫さんの結婚式の途中で倒れたようだ。
別の男性は、1時間前にろれつが回らなくなり意識が途絶えたようだ。
その後搬送された女性も、飲酒後に失神したようだ。
「▲▲さん、お腹は痛いですか?」
「え、えっと、今は大丈夫です」
「便通はどうですか?順調ですか?」
「毎日あります、今日はまだですが」
「なるほど、いま出てたみたいだから今日は大丈夫ですね」
「・・・・」
私は緊張した。
この会話を脳内イラスト変換すると、この患者の便通は「いま出ていたみたい」と言われた。
しかし患者はそれを知らない様子。
どこに、出ていたのだろう・・・。
いやいや、意識を消失していたわけで命にかかわる状況だ。
便通がどこであろうが、生きているのだからなによりではないか。
救急指定病院とは、患者を選べない過酷な環境にあることを知った。
そしてここで働く人たちに、労働基準法を適用させるのは無理があることも知った。
たとえば休憩時間中に救急搬送があった場合、
「いま休憩中なので手伝えません」
と言えるだろうか。
心肺停止となった患者を横目に、自らの休憩をつらぬくことができるのだろうか。
これはカフェでお客さんに、
「店内混んでますので少々お待ちくださいね」
と言うのとはわけが違う。
重篤な症状ではない高齢のおばあちゃんが嘔吐したときも、吐しゃ物をのどに詰まらせないように看護師が駆け寄り処置を施した。
いつ嘔吐するか分からない高齢者を、常にマークしていなければならないのだ。
今日私は、突然のめまいに襲われ転倒した。
自力で立つことができず、それが脳からくるものなのか、半規管の異常なのかを診断してもらうべく救急で受診をした。
しかし、救急現場の中心でじっと座っていると、罪悪感を覚える。
もっと優先すべき患者がいて、助かる命もあるのではないか。
何なら、患者のベッド移乗くらい私も手伝える、フィジカルは絶好調だから。
そんな中、内線電話でのコソコソ話が聞こえてきた。
「ウラベリカさん、血液検査追加オーダー入れたんで、はい、大至急お願いします」
・・・私に何かあったんですか。
Illustrated by 希鳳
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