マイナンバーが引き出した社長たちの底力

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マイナンバー制度が導入されてから、早くも4年半が経過する。

スタート当初のあの大混乱はいったい何だったんだろう、というくらいに水面下で静かに浸透した。

 

今年に至っては、コロナの影響でばらまいた「給付金」の手続きの際に、

 

「なぜマイナンバーを交付しているのに、もっと迅速にできないんだ!」

 

などとマイナンバーの肩を持つ発言まで聞こえた。

 

いやいや、オマエら当時は

 

「これは国民総背番号制度の復活だ、ふざけるな!」

 

とか糾弾してなかったっけ。

 

国民総背番号制度とは、1968年(昭和43年)に行政機関の業務の無駄を省くことと、国民へのサービス向上を目的とし、各省庁が統一の個人番号を利用する制度を検討した。

しかし、この国民総背番号制度は諸々の反対意見が多く、頓挫した。

 

 

私の仕事(社労士)も、マイナンバーとの繋がりは深い。

 

2016年(平成28年)11月に、

「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律附則第三条の二の政令で定める日を定める政令(平成28年政令第347号)」

が公布・施行されたことに伴い、社会保険(健康保険・厚生年金保険)や雇用保険の得喪の際に、マイナンバーがの記載が必須となった。

 

今思えば、当時のクライアントとの間での「マイナンバーのやり取り」は、かなりの古典的手法、かつ、ユーモアに溢れるものだった。

 

 

マイナンバー導入以前から懸念されていたことは、罰則の厳しさについて。

 

個人情報保護法における個人情報取扱事業者に対する罰則の適用よりも、マイナンバー法のほうが厳しいレベルで設定されたのだ。

 

事業者は、お上が決めた方針に従うだけで、好んでマイナンバーを収集するわけではないのに。

 

 

なかでも厄介なのは、マイナンバーを提出してもらう際の本人確認から保管、委託先・再委託先の監督、安全管理措置などなど、大企業くらいしか対応できないであろう要件を突き付けられたことだ。

 

しかし、これらを遵守せねば罰則が待っている。

 

なんとも理不尽な世の中だ。

 

 

マイナンバーは12桁の数字で、4つの数字×3つの塊に分けて記載されている。

 

その12桁の数字を、いかに秘匿し暗号化した状態で安全に届けるか、クライアントである彼ら・彼女らの、知恵をしぼり出した「マイナンバー作戦」は、お見事だった。

 

クライアントの一社からメールが届いた。

タイトル「●●さん」

本文「今日はとても天気がいいですね1234。

私は朝、5678洗濯物を干してから会社へ来ました。

先生も快適な9012一日をお過ごしください。」

この社長は、ものすごく真面目な女性だ。

必死に考えたあげく、この手法を思い付いたに違いない。

 

私はクスッとなりながらも、感謝した。

 

 

続いてのクライアントからメールが届いた。

タイトル「△△さんマイナンバー」

本文「                       」

メールを開くと本文が空白だった。

一文字も書かれていない。

 

タイトルからして、書き忘れるはずもない。

 

しばらく考えた私は、一つのアイデアを思い付いた。

そう、白黒反転させてみたのだ。

 

すると、

△△さんのマイナンバーは、123456789012です

という文章が浮かび上がった。

 

「なーるほど」と感心してしまった。

 

 

また別のクライアントから、マイナンバーが届いた。

タイトル「××さんの件」

本文「987654321098」

これは危ない、普通にマイナンバーが記載されている。

と思っていたところ、LINEが来た。

 

「さっきのメール、逆からが正しいマイナンバーです」

 

(・・・ナルホド)

 

 

またまた別のクライアントからメールが届いた。

タイトル「□□さん」

本文「0123 4567 8901」

これも明らかにマイナンバーと分かってしまう記載だ。

すると電話がかかってきた。

 

「あの番号に、全部1を足してください」

 

(なるほどねぇ・・)

 

 

本当に、全員それぞれ「知恵を絞りだした傑作」といえるだろう。

普段は真面目に仕事をこなす社長らが、本気で、真剣にあみ出した暗号化の方法が、これらなのだから。

 

こういうときに、人間の本質が表れる。

 

ガチガチに捉えず、柔軟にユーモラスな発想ができる人のほうが、人間としてよっぽど賢いし魅力的だと思う。

 

他にもまだまだある。

SNSを駆使し、数字4つを3つのSNSに分けて送ってきたり、タイ語で数字を入力して送ってきたりと、だれ一人重複する方法を用いなかった。

 

 

人は、追い詰められたときに本領を発揮する。

 

私から、

 

「何でもいいから、とにかくどうにかしてみてください」

 

と言われ、自分の頭で考えるしかなくなった社長たち。

 

それが、こんな斬新なアイデアがポンポンと生まれてくるのだから、人間捨てたもんじゃない。

 

 

しかし今では、マイナンバー制度導入当初のピリピリ感は影を潜めている。

もちろん、ルールは守らなければならないわけで、マイナンバーの取り扱いを厳重に安全に行っていることは言うまでもない。

 

だが、導入前と比べ、マイナンバーの持つ意味や影響力が、そこまで絶大ではないことが肌感覚として分かってきただろう。

 

犯罪被害が少ないことも後押しするが、実際に財産が根こそぎ奪われる、とかあり得ないわけで。

 

だからこそ、コロナでそれどころではないかもしれないが、今後はもう少しだけマイナンバーの柔軟な取り扱いを望みたい。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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