他人にとっては難しくて、私にとっては簡単なこと。

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わたし自身やわたしの周りの人間にとっては、取るに足らない些細なことかもしれないが、そんな「大したことじゃない」ことが、他人にとっては筆舌に尽くしがたい喜びに繋がることもあるのだ。

 

 

今日、たまたま立ち寄ったパン店で店主と会話をし、わたしが"インスタ、フォローしてますよ"と告げたところ、

「じつはあれ、昔働いてくれていた従業員が作ってくれたアカウントで、もう何年も投稿してないんです・・」

と困った顔で答えてくれた。そこで、新しいアカウントがあるのか尋ねたところ、

「ワタシSNSとか苦手で、新たに(インスタのアカウントを)作れていないんです・・」

と、恥ずかしそうに呟いた。そこでわたしが"5分もあればすぐにできますよ!"と言うと、店主はベーカリーオーブンの奥から自身のケータイを握りしめ、大急ぎで戻って来た。

「もしよければ、教えてもらえませんか」

ちょうどわたしには30分ほどの待ち時間があった。どうせ暇つぶしにブラブラしようと思っていたので、店主の申し出を二つ返事で受け入れると、さっそく新たなアカウントを作成するべく彼女のケータイをのぞき込んだ。

 

わたしがインスタのアカウントを作ったのは10年前。もはやどうやって作成したのかも覚えていないので、店主に隠れてコソコソっとググってみた。だがやはりよく分からない。それでも「5分でできる」と豪語してしまった手前、できない素振りは見せられない。——仕方ない、自信満々にいろいろいじってみるか。

店主のケータイを借りると、インストールしてあるインスタのアプリをタップしてみる。するとFacebookのアカウントと強制的にリンクされた、彼女個人のインスタグラムが開かれた。

それについて尋ねるも、彼女もよく分からずに作成したわけで、投稿もなければフォローもフォロワーもいない。——とりあえず、店のアカウントを作りたいのだから「アカウントを追加」でいいのだろうか?

 

「新しいアカウントを作成」という文字を発見したわたしは、ユーザーネームを付けたり質問に答えたりしながら、一つずつ先へと進んだ。途中で生年月日やパスワードの設定もあったが、とりあえず"新たなアカウントを作成できるかどうか"が重要なので、適当な数字を入力。——とにかく、これで上手くいけば最初からやり直せばいいわけで、まずは成功しなければならない。

すると突然、見慣れた画面が現れた。・・そう、アカウント作成に成功したのだ。しかも、どうやら名前もユーザーネームも後から編集できる模様。よって、このままプロフィールをきれいにすれば、パン店の新たなインスタグラムが完成するわけだ。

 

「わぁ!ありがとうございます!!あぁ、本当にすごい。初めてお会いしたばかりなのに、なんとお礼を言ったらいいのやら・・」

店主は顔をほころばせながら喜んでいた。来店客もあったので最後まで編集を終えることはできなかったが、デカい口を叩いた手前、最低限の形だけでも生み出せたことに内心ホッとした。

「誰に聞いたらいいかもわからなくて、ずっと困ってたんです」

店主の言葉にハッとした。このセリフ、別の誰かからも聞いたような——。

 

 

もうじき70歳を迎える友人は、連絡手段が携帯電話とメールの二つだけだった。無論、電話をかければ(着信に気付けば)つながるが、メールのほうがどうも上手くいかない様子。その理由を聞くと、

「宛先を間違えているようで、知らない人から返信がくるんですよ」

とのこと。なぜわたしが送信したメールへの返信なのに、知らない人から返信が来るのだろうか——。

不審に思った私が、その"知らない人からのメール"を見せてもらったところ、思わず絶句した。それは"MAILER-DAEMON(メーラーデーモン)"氏(?)からのメールだったからだ。

 

これは、何らかの理由でメール送信ができなかった場合に、メールサーバーが自動的に送信元へ返送するプログラムである。よって、"何某デーモン氏"からのメールではないのだ。

この件に関して簡単に説明はしたが、かといってその原因までは分からない。ならばと、わたしが日頃から使用しているLINEのアカウントを作成し、グループを作って情報共有できるように勝手に設定してみた。

じつのところ友人は、LINEを使用することに乗り気ではなく、なんだかんだで2年近く保留となっていたのだ。ところが、一度LINEグループでメッセージのやり取りを経験すると、上機嫌でLINEを使いこなすようになった。"百聞は一見に如かず"というか、"習うより慣れよ"というか・・。

 

さらに、過去に作成したX(旧Twitter)のアカウントが開けないというので覗いてみたところ、パスワードの不一致でログインできないことが判明した。そしてパスワードを忘れていることから、もう二度とログインできないと信じていたのだ。

(・・あるあるだな)

そこで、わたしが誘導しながら新たなパスワードを設定し、電話番号やメールアドレスも登録し直すことで、ついにXへのログインに成功したのだ。

 

「いやぁ、ありがとうございます! 誰に聞いたらいいのか分からなくて、ずっと困っていたんですよ」

人生の大先輩である友人は、はにかみながら感謝を述べてくれた。こんなことなら、もっと早く首を突っ込めばよかったな——。

 

 

かくいうわたしも、ITリテラシーが高いわけではない。ただ、わたしごときで分かることならば、なんでも教えてあげたいと思うのだ。

当たり前のことだが、日本語の読めない外国人が困っていたら、日本語の分かる日本人が手助けしてあげるのと同様に、"誰に聞いたらいいのか分からない"とか"何をどうしたらいいのか分からない"というような「質問自体がよく分からない問題」は、その辺にいる分かりそうな奴に聞けばいい。

 

——そういう悩みや不安を抱えた人が、思っている以上に多いのかもしれない・・と感じる事例に、短期間でいくつも遭遇したことを思い出すのであった。

 

サムネイル by 希鳳

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