柔術啓蒙記

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肋軟骨を骨折して4週間が経った。そう、あれからあっという間に一か月が過ぎたのだ。

これまでのケガならば、一週間もすればコソコソと練習に出かけていたことを思うと、今回のケガはわたしにとって「大ケガ」の部類だったといえる。

 

肋軟骨(ろくなんこつ)という肋骨と胸骨とをつなぐ部分がパッキリ折れて、さらにその周囲の筋肉が肉離れを起こした、というのが今回のケガの詳細。

格闘技経験者ならば一度は味わうケガの一つだろう。

骨折箇所は小さいくせに、体の中心だからか手も上がらなければ足も使えない、腹筋などもってのほか。

 

ということで、胸部を除き超元気な「怪我人」が誕生した。

 

部分的なケガの場合、その部位を使わなければ柔術はできる。過去には右足首の靭帯を切ったり、左手中指を骨折したり、左膝の靭帯を痛めたり、「小ケガ」をたくさん重ねてきた。

しかしその都度、ケガの箇所を使わないように工夫しながら練習を続け、一か月が過ぎた頃にはいつの間にか回復していた。

 

自分の知らないところで肋骨にヒビが入っていたこともある。

空咳がひどいので呼吸器科を受診した際、撮影したレントゲン写真を見ながら、

「3か月くらい前にこことここ、亀裂骨折していたね」

と医者から指摘された。見ると確かに他の骨よりも濃い白色のラインが見える。思い返せばここ数か月、アバラが痛かった。

 

原因はビンビン系男子とのスパーリング中、勢い余ってニーオン(Knee on belly)された時に折れたようだ。

言われてみれば肋骨は痛いが、ずっと痛いのでその痛みに慣れてしまい、2週間もしないうちに練習へ戻った記憶がある。

あの時のこともあり、今回も大したことはないだろう、と高を括っていたのだ。

 

思うに肋軟骨骨折といっても程度がある。周囲から聞くこのケガは、さほど大したことはないように思えた。

だが実際は横になるのに1週間を要し、その間ずっとソファで座って寝た。チワワより早く歩けるようになったのなど、つい最近のことだ。

つまりわたしの場合、本来「小ケガ」の部類のはずが、わりと「大ケガ」を負っていた。

 

しかし、そのおかげで身についた「技」もある。

たとえばベッドに横たわるときや起き上がるとき。これまでは無意識に腹筋で行っていた動きを、肘やおでこを使って「フレーム」を作り、腹筋を使わずとも自立が可能となった。

 

ちなみに肋軟骨を骨折すると、寝返りも、うつ伏せもできない。さらに胸部を動かすことでアバラが刺激されるので、肩や腕を大きく使うことも避けなければならない。

 

このように限られた条件下で、これまでと変わらず利用できるのは「頭部」だと気づく。

 

後頭部やおでこを支点にし、体の向きを変えることや起きあがる動作の補助ができる。これは怪我人だけでなく高齢者の臥床・離床にも役立ちそうだ。

つまりは首のトレーニング、これをしておけば肋骨や肋軟骨をヤッても、どうにか自力で寝起きができる。

 

柔術の準備運動に、首でブリッジしながら斜め後方へタッチする動きがある。まさにアレだ。アレさえできれば尻が浮くため、体の向きを容易に変えられる。

こうしてわたしは、首を鍛えることで自力による体位変換が可能であることを突き止めた。

 

そしてもう一つ、くしゃみを止める方法を編み出した。これは百発百中で止められる自信作。

 

くしゃみが出そうになったら鼻の下を伸ばし、人中(ジンチュウ)を指でグリグリ押す。

 

これだけだ。

よく、ムズムズする鼻をつまんだりするが、あれは意味がない。鼻の奥がムズムズしているため、外から触れることはできないからだ。

しかし鼻の下を伸ばしながらグリグリやると、なぜかくしゃみが止まる。理由は不明だが、わたしはこうして4週間、くしゃみをせずに過ごしてきたのだから間違いない。

 

そして今日、とうとうくしゃみを解禁した。

 

(お、きたきた)

くしゃみの予兆を感じると、わたしは姿勢を正しその時に備える。

 

ーー大丈夫、怖くない。もう4瞬間も経っている。派手にくしゃみをかましてやろうではないか。

 

ハクショーーン!!

 

一瞬、右のアバラに痛みが走るが、これまでの激痛とは異なる感覚だ。痛みというより違和感に近い。

(大丈夫だ、くしゃみクリアした!)

 

胸部周辺の骨折において、くしゃみができればほぼ回復といっても過言ではないだろう。長かった怪我人生活とも、これでおさらばだ。

思い返せば失ったものなど何もない。むしろ得たものしかない。くしゃみを止める他にも「笑いをこらえる術」「笑っているように見せかける術」なども身につけたので、追々紹介していこう。

 

とどのつまりは、柔術でケガをしたが柔術のおかげで快適な怪我ライフを送れた、という「柔術啓蒙活動」がしたかった。ただそれだけだ。

 

 

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