「串カツパーティーでもしようか」
友人から提案があった。すかさず私は質問する。
「それって、アンタの家で作るってことだよね?」
すると友人は笑いながら、
「んなわけないじゃん!デリバリーだよ」
と返してきた。それはダメだ、と私は説明を始める。
店の油、とくに「揚げ物店」の油をまったく信用していない私は、とにかく油にうるさい。店としては注文が入ればすぐさま揚げなければならないので、フライヤーで油を熱して今か今かと待ちわびている。
そして、長期間油を交換せずに使い回している店の揚げ物は、目の前に出された瞬間に分かる。油が臭いからだ。学校で習ったわけでもないのに、この異臭は「酸化した古い油のニオイだ!」とわかるくらい、人間にとって毒であると本能的に察知する。
長々と説明をした後、呆れ顔の友人はこう言う。
「自宅でやったら部屋が油臭くなるし、油捨てるのも大変じゃん」
その言葉を聞いた私は、最近あった「ある食べ物の捨て方が大変だったこと」を思い出した。
*
ぬか床にハマっている友人がいる。そんなもののどこに魅力があるのか分からないが、とにかく楽しいらしい。早速、ニンジンやキュウリ、ダイコンを漬けたものをぬかごと持ってきてくれた。もらえるものはなんでも嬉しいので、水で洗い流すと一口かじってみる。
(んー、なんか健康的な味がする)
予想以上に食べやすいことに驚く。ぬか漬けなど、子供のころに親が無理矢理食べさせようとしたくらいで、その後わざわざ食べようとは思わなかった。だが改めて、こうして手作り料理(?)として味わうと、わりとイケるものだ。
どうせならすべて洗ってジップロックで保存しよう、と思った私は、残りの野菜をゴシゴシと洗い始めた。最初はいい調子で洗っていたが、そのうちシンクにみるみる水がたまり始めた。
(やばい!ぬかが詰まったのか?!)
薄茶色のおがくずを溶かしたような水が、静かに水位を上げている。まさかぬかごときで、シンクのゴミ受けが詰まるとは思えない。だが事実、目の前で泥水、もといぬか水が逆流している。
それでも、とにかくこのダイコンをきれいにするまでは、水道は止められない。大急ぎでゴシゴシ洗い終えると、泥水に手を突っ込み手探りで排水口カバーをはずし、ゴミ受けをちょっとだけずらしてみた。
ゴゴゴー
わずかな隙間から一気に水が流れ出ていく。これで一安心。そこで私はふと、残りのぬかを粘度遊びのように手でこねて丸めると、水に当ててみた。するとみるみる個体から液体へと変化し、サラサラ溶けて流れていった。
ーーそもそもぬかって、何でできているんだ?
ビニール袋に詰め込まれたぬかをすべて洗い流すと、今度はシンクの掃除に取り掛かる。と、その時だ。
ゴミ受けもシンクも、ピカピカになっているではないか!
いつもならクリーナーや除菌スプレーをまき散らすところだが、ぬかのおかげなのか、ヌルヌルは消え去りブラシでこする必要もない。素手でゴミ受けや排水口カバーをキュッキュとこすり、シンクも同じく素手で撫でるように洗い流すと、ハイおしまい。
いつもなら塩素のニオイで鼻が曲がりそうになるが、今回は使っていないのだからそんなニオイもしない。しかもぬかを使ったにもかかわらず、ぬかの臭みもしないのだ。
自分の存在感を消した上で、汚れやヌメリを落としてくれたというのかーー。
ぬかってやつは、謙虚で健気でかわいらしいやつじゃないか!
ゴミ受けに引っかかっている大量のぬかの残骸をすくいあげると、二重にしたビニール袋へ入れてゴミ箱へと捨てた。どことなくぬかのニオイがしなくもないが、塩素のニオイに比べればなんてことはない。自然が醸し出す生きた香りだ。
*
私はこの経験を生かして、次回はゴミ受けやシンクの掃除をするタイミングでぬか漬けをもらうと決めた。そしてぬかを洗い流してダムをつくり、ぬかの恩恵により無害な状態でシンクをきれいに掃除しようーー。
おなじ「捨てる」でも、油は流しに捨ててはならない。さらに自然発火の危険性もあるため、さっさと可燃ごみとして捨てなければならない。それに比べてぬかは、捨て方も簡単だし最後まで役に立つ。雲泥の差だ!
と感動していた矢先、「やってはいけないぬかの捨て方」というサイトが目に入る。
「ぬかは生ごみとして捨てましょう。決して、流しに捨てないようにしましょう。詰まりの原因になります」
サムネイル by 希鳳
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