ビジネスホテルに設置されているミニバーというやつ、あの大きさの冷蔵庫がちょこんと置かれているだけだ。
ちなみに冷蔵庫で困ったことなどない。なぜなら、必要に応じて近所のコンビニへ走ればいいからだ。
言い換えれば、ある意味とても贅沢な暮らしといえる。コンビニほどの巨大冷蔵庫・冷凍庫を保有しているのだから。
*
とくに腹が減ったわけではないが、口さみしくなる午前2時過ぎ。
我が家のミニバーを開けると、忘れかけていた「はなまるうどん」を発見した。
(ウーバーイーツで2個頼んで、1個食べ忘れてた・・・)
はなまるうどんは優秀で、二層に分かれた容器で配達される。
一階部分に「汁」、二階部分に「うどん」と、コンビニの麺類ばりにちゃんと階層分けされているのだ。
この構造により、
「放置した結果、うどんが汁を吸ってブヨブヨに太る」
というあの悲劇から免れることができる。さすがの企業努力。
冷蔵庫からはなまるうどんを引っ張り出してフタを取る。すると、
・・・うどんが凍っている。
一階の「汁」はチャプチャプしているが、二階の「うどん」だけがカチコチに凍っているではないか。
我が家の冷蔵庫には冷凍室はついていない。だが、製氷機はついている。
うどんは製氷機の真下で保管されていたため、その冷たさで凍ってしまったのだろう。
しかし横並びで突っ込んであるペットボトルの水は、液体の状態を保っており全く凍っていない。
なぜうどんだけカチコチになるのかーー。
まぁよくわからないが、なかなか「冷凍状態」を目にすることのない我が家で、氷の結晶を見ることができたのは貴重な経験といえる。
しかしあまりに固まりすぎて、箸でつついてもびくともしない。
(やむなし、このままいくか)
まるで食品サンプルのような「うどんの塊」を鷲掴みすると、大きく口を開けてかじりつく。
ーーシャクッ
なんともいえない歯ごたえだ。
決して硬くはないが柔らかくもない。表面はカチコチにもかかわらず、
「モチモチした麺がシャーベット状になっている」
と、一瞬でわかる歯ごたえ。例えるなら「解凍途中の冷凍バナナ」のような食感。
(しかしこれだけ硬いと、溶けるまでに時間かかるな・・・)
本来ならば、うどんをしっかり解凍してから一階部分の「汁」と混ぜて食べるべきだが、この食品サンプル、もとい「うどん」は手ごわい。通常の状態に戻るまでに1時間はかかりそうだーー。
そこでわたしは考えた。その結果、とある食べ方を思いついた。
しゃぶしゃぶ方式。
うどんが凍ったままならば、逆にうどんの塊を汁につけて食べればいい。そう、豚肉をポン酢にボチャンとするかのように。
早速、汁にチョンチョンしたうどんにかじりつく。
(・・・まぁ普通)
そりゃそうだ、本来その汁と混ぜて食べる商品なのだから、それが普通に決まっている。
そこでわたしはちょっと冒険することにした。
凍ったうどんは味がしない。強いて言うなら生地に塩が練り込んであり、舌の上で微かな塩味を感じる程度。それ以外はどんなに味わっても「小麦粉の味」しかしない。
これならばパンやピッツァの生地と変わりないではないか。ならばーー。
わたしはキッチンからハチミツを持ち出し、凍ったうどんに垂らしてみた。
(んーーー、極めて普通)
これもなんというか普通だった。東南アジアのスイーツにありそうな味。
決して不味くはないが、今後この食べ方をゴリ押ししていこうとは思えないレベル。
仕方なくわたしは、相変わらず凍ったままのうどんの塊を持ち上げると、味付けせずにプレーンで食べ始めた。
シャクシャク。
音だけはいっちょまえの存在感を示す。
もはや美味いとか不味いとか、そういう話ではない。これは「うどんシャーベット」という新たな商品と捉えるべきだ。
*
こうして10分後には「うどんシャーベット」は姿を消した。
これがわたしのよくある日常的な深夜だ。
サムネは再び、ホナウド!
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