愛玩犬としてのプライド

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(こ、これこそが本家本元の実力ってやつか・・・)

 

帰省したわたしは、フレンチブルドッグの乙(おつ)と二か月ぶりの再会を果たした。

乙は、10月の終わりに皮膚組織球腫の手術を受けた。左手の小指外側に大きなイボのようなものができたため、経過観察を含めて治療を続けたが、日に日に巨大化するイボは切除を余儀なくされた。

 

そして、球腫の状態によっては「断肢もあり得る」との説明を受けた。これを人間に置き換えてみると、

「たかが指の外側にできた腫瘍ごときで、指ごと切断するなんてありえない!」

となるだろう。しかし犬の場合、皮膚疾患などで皮膚が弱ければ皮弁がくっつかなかったり、患部から細菌が入ってしまい感染症になったりと、一筋縄ではいかない事情もあるのだ。

 

飼い主共々、覚悟を決めて挑んだ全身麻酔による切除手術。

その結果、球腫は良性でツルンと取り除くことができたため、皮弁による再建が可能となった。そして、包帯を交換し続けること4週間。ついに傷口が塞がったのである。

 

そんな苦難を乗り越えた乙は、心なしか毛艶も良くて若返ったように見える。

 

やや久しぶりの飼い主との対面に、喜びを爆発させる乙。興奮気味にわたしの指を甘噛みしたり、勢いよくひっくり返っては腹を撫でさせたりと、飼い主への媚び方、いや、嬉しさの表現力が凄まじい。

誰と比べて凄まじいのか?・・・それは、カピバラだ。

 

 

昨日、自然豊かな千葉県・袖ヶ浦で、カピバラたちと触れ合ったわたし。

カピバラはペットではないので、人間に懐かなくて当然。だが、キャベツやニンジンをチラつかせると、渋々ながらも寄って来るサービス精神というものを待ち合わせている。

さらに個体によっては、お尻や脇腹、のどの辺りをガシガシ撫でると、気持ちよさそうに倒れたりもする。そのとろけるような表情たるや、撫でているこちらも目を細めてしまうのだ。

 

カピバラのチャームポイントといえば、無表情な顔だろう。ぽってりとした胴体から生える細くて短い脚も魅力的だが、やはりあのぬぼーっとした顔こそがくせになる。

そして体重50キロを超えるカピバラが、人間に撫でられただけでゴロンと倒れる姿も、シュールで愛嬌がある。

 

地面にひっくり返ると腹を見せ、うっとりと目を閉じるカピバラ。その腹を撫でながらわたしは、

「これはもはや、愛玩動物なのではなかろうか」

と思わず呟いた。それほどまでにカピバラは、ボディータッチを通じて人間との距離を縮め、「かわいい」と言わしめる術を身につけているからだ。

 

 

そんなカピバラの興奮冷めやらぬまま、わたしは実家にいる乙のもとを訪れた。

そしてこれこそが「真打ち登場」というのだろう。圧倒的な愛玩動物っぷりと見せつけられたのだ。

 

まずは、その柔らかな肉体と関節の可動域をフルに使い、「腹を撫でろ」といわんばかりの催促に圧倒された。

煮るなり焼くなり好きにしてくれ!と、惜しみなく腹を見せつつ四肢を外側に開く乙。その方向へは関節は曲がらない…という方向へ、全力で開くのだから驚きである。

そうまでして「撫でてくれ」アピールを敢行するあたり、愛玩動物としての自覚が十分にある証拠だ。

 

さらに、少しでも濃厚に触れ合うべく、わたしの指をうまい具合にハグハグと甘噛みするのだ。

決して痛すぎず、かといってまったく痛くないわけでもなく、正面から横からとっかえひっかえ甘噛みを続けるフレンチブルドッグ。

 

そんな乙の姿を見ながら、わたしは愛玩犬のプライドを見せつけられた気がした。

 

――おまえら人間が、一方的に可愛がるだけじゃダメなんだよ。こちとら愛玩犬として品種改良を重ねた結果、目が離れたブサイクな顔とずんぐりむっくりのブタみたいなフォルムに仕上がったわけで、こっちからもすり寄る姿こそが、愛玩犬の真骨頂。マグロ状態じゃだめなんだよ、こうやってこっちからもモーションかけていかなきゃ!

 

こうして人間は、愛玩動物に遊んでもらっているのである。人間が動物を可愛がっているように見えて、じつは動物側の策略にはまっているだけなのである。

 

(よしよし、とか生意気なこと言ってすんません、乙先輩!)

 

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