粗野な私が、どうしても許せないこと

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本日の最高気温は28度・・ということで、これはもう夏といっていいだろう。よって、今シーズン初となる"裸足でサンダル"という出で立ちで、外出を果たしたわたし。

ようやく、マットなブラックが悪魔らしさをアピールしてくれる、お気に入りのフットネイルを披露できる——と喜んでいたところ、友人から残飯処理・・いや、ホームパーティーへの緊急招集があった。

 

日頃からわたしは、大勢が集まる食事会への参加は、原則、すべて拒否している。仮に、それがわたしの誕生日パーティーであったとしても、丁重にお断りするほどの徹底ぶりだ。

そのため、通常ならば「ごめん、用事がある」の一言で済ませるべきところなのだが、

「うどん6人前買って来たのに、食べてくれる人がいない」

などと言われたら、なんというか義務感のような感情が湧いてくる。しかも場所は近所の友人宅で、わが家から徒歩3分に位置するため距離的に断ることができない。そこで、

「自宅でやることがあるんだよね・・」

と、さり気なく断りの返事を送るも、

「うどんだけ食べて帰ったら? マジで美味いから」

と、バッサリ切られてしまったのだ。

 

(まぁ、美味いうどんなら食ってもいいか・・・)

 

こうして、嬉しくも複雑な心境で友人宅へ向かおうとしたところ、自分が裸足であることに気がついたわたし。

外資系企業に勤める友人とはいえ、土足で自宅へ上がっていい・・なんてことはないだろう。ということは、やはり玄関でサンダルを脱いで、室内用のスリッパに履き替えなければならないはず。

(・・裸足でスリッパは、さすがにマズいだろう)

 

これはあくまでわたしの個人的な感想だが、樹脂製ならばまだしも、ファブリック製のスリッパを裸足で履くことを、断じて許せないのである。

樹脂製のスリッパならば、その都度洗うことができる。足も洗うがスリッパも洗う・・と、清潔な状態を保つことができるのだ。

ところが布や革といった素材では、その都度ジャブジャブ洗うことなどできない。

 

しかも、百歩譲って自宅のスリッパならば、わたし一人しか履かないわけで諦めもつくが、他人の家でわたしが裸足でスリッパを履けば、顔にはださずとも友人は涙目になるだろう。いや、もしかしたらわたしが帰った後で、ゴミ箱へ投げ捨てるかもしれない——。

 

かといって、靴下を取りに自宅へ戻るのも面倒くさい。・・というわけで、とりあえず友人にこの件について伝えてみた。

「いいよー」

・・そりゃそうだ、そう言うに決まっている。裸足なら来ないで!・・などと断るくらいなら、うどんの処理をわたしに依頼するはずもないわけで。

 

(しかたない、今できる最善を尽くそう)

ついさっき石鹸で足の裏を洗ったばかりではあるが、改めてウェットティッシュで足の指からかかとまで、キュッキュッと拭き始めた。

(でもこれじゃ、本当に清潔な状態かどうか分からないじゃないか・・)

拭く前と後とでなんの変化もない素足を見つめながら、わたしはどうすればこの足がキレイであることを示せるのかを考えた。見た目的には変化をつけられない、ということは——。

 

そこでわたしは、背負っていたリュックから、勝負クリームである「ミス ディオール ハンドクリーム」を取り出した。

いい匂いがするオンナというのは、いいオンナである。見た目ではいつもと変わらぬ手足であっても、そこからディオールの高貴で華やかな香りが漂えば、それはもう完全に勝ち組なのだ。

 

いざという時、これを塗りたくって勝負に出よう・・と決めているわたしは、まさか今日が「いざという時」だとは思わなかったが、それでも今使わずしていつ使うんだ——というわけで、ディオールを手のひらに絞り出した。

 

わたしが乗っている南北線車内は、連休中のイベントでもあったのだろうか、微妙に混雑している。それでも、つま先からかかとまでディオールを塗らなければ、友人宅へ足を踏み入れることはできない。

(ちょっと失礼しますよ・・)

周囲の人間に配慮しながらも、わたしはいい匂いのクリームを足の裏全体に塗りたくった。手に残ったクリームは、足の甲やくるぶしまで伸ばすことで、足全体をしっとり潤わせることに使った。

(よし、これでわたしは「裸足だがいい匂いがするオンナ」になれたわけだ!)

 

 

気分はもはや"ディオールのスタッフ"となったわたしは、意気揚々と友人宅へ押し入った。するとそこには、布製のスリッパとともに靴下が置かれてあった。

(いい匂いは、封印されるのか——)

まぁ、今日が勝負の日ではなかった・・ということだ。

よし! 気持ちを切り替えて、美味しいうどんとやらをいただこうじゃないか。

 

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