警察官が声をかけたくなる女

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タンクトップが映えるムキムキの上腕、ダメージ加工のダボダボのオーバーオール。

グリーンの髪の毛を揺らしながらオラつく、完全なる不審者。

 

そう、本日の私。

 

その不審者が、某法律事務所のインターホンを鳴らした。

 

「はい、法律事務所●●です」

 

「ウーバーイーツです」

 

「あ・・・笑。お待ちくださいね笑」

 

アッサリと法律事務所のセキュリティを突破した。

もっと不審がるべきだが、常連のウーバーイーツ配達員ともなると、もはや顔パス(声パス)だ。

 

 

霞が関は土地柄、至るところに警察官が立っている。

 

2ヶ月前ーー

 

解体しかけで工事が中断しているビルを見ながら、暑さに耐えきれず小休止していた。

 

「すいませ-ん、ちょっといいですか?」

 

突然、警察官に声をかけられた。

 

ーー私は考えた。

霞が関の官庁街を、タンクトップ短パン金髪で、両手にスターバックスの紙袋を下げたオンナが、廃墟ビルを眺めて立っていたらどう思うだろうか。

 

きっと、定職に就けないウーバーイーツの配達員が、なにか良からぬことでも企んでいるのではないか、と思うかもしれない。

 

私はその日、重要なミーティングのため、霞が関にある法律事務所を訪問することになっていた。

関係者にスタバのドリンクを差し入れてあげよう、という優しい気持ちの社労士を、不審な配達員と見たのか。

 

警察官が言葉を発する前に、私から質問をした。

 

「私のこと、ウーバーイーツの配達員だと思ってるよね?」

 

警察官は面食らった様子で否定した。

 

「こんな中央官庁しかない場所で、こんなカッコで両手にスタバの紙袋下げたヤツ、ウーバーイーツの配達員くらいだもんね。

でもね、残念ながら私は配達員じゃないの」

 

警察官は、そんなこと聞いてねーよと言わんばかりの顔だ。

 

「ど、どちらへ行かれるんですか?」

 

ーーほぅ。

ウーバーイーツの配達員じゃないとすると、一体どこへ行くのか?行くあてなどないだろう?ということか。

 

「弁護士事務所」

 

私はニヤリと笑って続けた。

 

「いまさ、こんなバカで貧乏そうなオンナが弁護士事務所に行くということは、さては詐欺かなんかに引っかかってその相談に行くんだな、って思ったでしょ?

でもね、残念ながら打ち合わせなの。

私こう見えて社労士なの。

依頼人でも被害者でもクレーマーでもなんでもないの!」

 

話が終わるか終わらないかのタイミングで、警察官は右耳に手を当てて、イヤホンからの指示を聞いていた。

そして、くるりと向きを変えて去ろうとした。

 

「ちょっと待ってよ!

自分で呼び止めたくせに、逃げるとかおかしいじゃん!」

 

今度は私が、警察官を追った。

 

「ちょ、もう大丈夫なんで、すみません!」

 

そう言いながら足早に警察官は去って行った。

 

 

不審者は、不審な行動だけでなく、不審な雰囲気を醸し出している。

霞が関で呼び止められたことについて、警視庁の友人に話したところ、

 

「あの辺だとやっぱり、右翼を警戒してるのかなぁ」

 

と言われた。

(そうか、右翼っぽい顔なのか)

 

右翼は犯罪ではないので、そう見られるのは致し方ない。

つまり私は、どこをどう見ても悠然としており、怪しい要素はどこにもないが、たまたま右翼っぽい顔をしていた、というだけだ(予測)。

 

だが、ことあるごとにあらゆる街角で職質される。

挙げ句には、車の外からも呼び止められる始末。

海外においては、空港の税関で"ゲート閉鎖"の常連さんだ。

 

きっと何かあるんだろう、不審者ぽいナニカが、私には。

しかしそれが何なのか分からないので、不審者として生きていくしかない。

 

 

そして、霞が関で職質されかけた話を友人にすると、全員が口を揃えてこう言う。

 

「その警察官がかわいそう」

 

 

—————-キリトリ線—————-

 

Illustrated by 希鳳

 

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