オリンピック銀メダリスト、長塚智広の一風変わった魅力

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――オリンピックのメダリストというのは、その時点で、世界の頂点の人間であると証明されたことになる。

そのため、やはり、どこか「突き抜けてる感」を兼ね備えている。

 

私の友人に、アテネオリンピック自転車競技の銀メダリストがいる。

長塚智広(ナガツカ トモヒロ)だ。

 

あの銀メダルは、日本史上初の自転車トラック競技における大快挙だ。

さらに、長塚が引っ張ってきた銀メダル、といっても過言ではない。

なぜなら、あの日、予選本選含めた全レースで、世界最速タイムを出し続けたのが、長塚だからだ。

 

つまり、最速の銀メダリスト

(最速なのに銀、というところは突っ込まないでもらいたい。チーム競技なもんで。)

 

**

 

たまたま、当時のVTRを見た。

そして、今さらだが、ある違和感を覚えた。

それは「ヘルメット」だ。

 

まず、予選のヘルメットがこちら。

先頭の、白いヘルメットが長塚。

うしろの2人とは異なる。

 

そして、準決勝。

チームでも世界最速タイムを叩きだしたのが、こちら。

同じく先頭の、穴の開いたヘルメットが長塚。

 

ちなみに、決勝は予選と同じ白いヘルメットだった。

 

この2種類のヘルメットの違いについて、また、なぜ他の2人と違うのか(日本代表は本来、統一されるはず)、本人に尋ねてみた。

 

「あー、あれね。

オーダーしてたヘルメットが、依頼どおりにできてなかったんだよね。

だからオレだけ、その辺で売ってる、超ノーマルヘルメットで参加 笑」

 

(・・・え?)

 

「で、準決勝だけ、穴のあいたヘルメットにしてみた。

ちょっとした遊び心で 笑」

 

(・・・は?)

 

「でもねー、チームスプリントって、オレだけ速くてもダメ。

後ろの2人と息合わせないと、勝てないんだ。

オレ、あのとき世界トップのタイムだったから、ノーマルヘルメットで空気抵抗できた分、タイム落ちてちょうどよかったんだよね」

 

(・・・なるほど)

 

半分冗談(と、エクスキューズしておく)で真相を話してくれたが、当時の長塚はヤバかった。

世界中、だれも長塚を抜くことができなかった。

だからこそ、長塚は全力で自転車を踏み、市販のヘルメットでタイムを落とし、チームとして均衡を保つ作戦は、奏功したとしか言いようがない。

 

たかがヘルメット、と思われるだろう。

しかし、自転車トラック競技は、1000分の1秒を争う競技。

一瞬の遅れは完全なる敗北につながり、わずかな空気抵抗ですら、タイムは容易に変わってしまうのだ。

 

ピンチをチャンスに変えた、と、美しいスポーツ秘話にしたいところだが、彼はそういうタイプではないので、割愛する。

 

**

 

時は過ぎ、北京オリンピック。

長塚といえば空気抵抗、と異名をとるまでとなった彼は、最先端の空気抵抗削減グッズに目を付けた。

 

――そう、その名も 「レーザー・レーサー」

 

レーザー・レーサー(LZR Racer)は、イギリスのSPEEDO社が開発した競泳用水着。特殊な超音波を使って接着するため、水着に縫い目が存在せず、空気抵抗が軽減される。

また、生地の一部にLZR Panels(ポリウレタン素材)が接着してあり、締め付ける力が非常に強く、体表面の凹凸を減らす効果がある。

 

世界最速の男はピンときた。

 

――水中で、体表面積を減らすことにより抵抗減につながるのならば、空気も同じはずだ

 

彼はすぐさま、レーザー・レーサーを手配した。

 

 

北京オリンピック当日。

私たちが見たレースは、スタート直後に長塚の自転車の故障による再発走だった。

 

これが表面上の事実だ。

 

 

しかし、これには裏話がある。

車体故障の原因となったホイールは、長塚専用に作られた、スーパースペシャルライトホイール(フランス製)だった。

 

アテネオリオンピックでは、自転車先進国フランスから、当時最新の自転車を購入し、日本は銀メダルを獲得した(フランス3位)。

 

やはり、道具を使う競技は、道具の進化で勝敗が決まる。

当然、最先端の道具を使うべきだ。

そして、フランスのご厚意(?)により「今回もぜひ」ということで、本番ぶっつけで、その「長塚専用特注ホイール」を使用した。

 

その結果、

強度不足により破壊・・・。

 

 

しかし、特筆すべきはここではない。

じつは、この「さらに裏側」だ。

 

前述のとおり、長塚はレーザー・レーサーを着用している。

非常に強い締め付けにより、彼の身体は絞り込まれた状態だ。

レース時間に合わせ、ギリギリのタイミングでレーザー・レーサーを着用し、本番に備えたわけで、この無駄なロスタイムは想定外だった。

 

レーザー・レーサーの高圧力により、長塚の身体は、みるみるうっ血していった。

 

しかし、こんなことは誰にも言えない。

 

――テレビでは、ベンチコートに身を包み、体を冷やさないよう、太ももを叩く長塚の姿。

 

しかし、その本心は、

 

「やばい、足がしびれてきた・・。

たのむ、これ以上うっ血すると、歩けなくなる・・

 

こんな感じだ。

 

――テレビでは、チームメイトが長塚を心配そうに見つめる。

長塚も、祈るように両手で顔を覆っている。

車体故障の不安と、メダルへの重圧が、日本のトップレーサーにのしかかる。

 

しかし実際は、

 

本人「たのむ、1秒でも早く再開してくれ。

指先の感覚がなくなってきた・・」

 

チームメイト(長塚さん、なんでうっ血してるんだ・・)

 

 

脱ぎたくても脱げないのが、レーザー・レーサーの恐ろしいところ。

生地が伸縮しないため、着るのも脱ぐのも一苦労。

一度着用したら、レースが終わるまで、決して脱ぐことはできない。

 

 

――北京オリンピックの再発走までの間、彼は、超強力な「加圧地獄」と戦っていた、というのが、裏のオリンピックだったのだ。

 

 

**

 

アジア人で、短距離分野における世界最速を記録したのは、これまでに長塚以外、いないのではなかろうか。

とにかく、彼はスタートダッシュにかけては、天才だ。

その後、冬季オリンピックの「ボブスレー」からお声がかかった(ボブスレーも、最初のダッシュが勝負の決め手)が、そちらへは行かず、政治の道に興味を示した。

 

 

そんな思い出を、たこ焼き24個をほおばりながら、文字でまとめてみた。

このたこ焼きは、先日、長塚とともに訪れた店のものだ。

(あのたこ焼き屋、Uber Eats 始めたみたいだよ、長塚さん)

 

我々は、似た者同士ゆえ、お互いに観察のしがいがある。

そんな彼の人生が、危なっかしくも華々しいものであることを、祈っている。

 

――想えば叶う

 

 

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