酔っ払いは自己責任、吐しゃ物は自らの衣服で始末せよ

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電車に乗ると、なぜか私の周囲に人が来ない。

べつにとって喰いやしないのだが。

 

 

ある日の終電近くの山手線。

スーツ姿でふらふらと乗り込んできた中年サラリーマンがいた。

かなり泥酔しているご様子。

 

 

私は「酔っ払い」が大嫌いだ。

飲酒の理由はともかく、酔っぱらって人格が変わる又は体調不良になると分かっているのなら、飲酒するなと言いたい。

 

声量のコントロールができない、文句や説教を始める、やたらと絡んでくる、ふらふらして人やモノとぶつかる、吐く、救急車のお世話になる。

 

どれもこれも、飲酒を自制すれば防げることばかり。

上司に勧められたから、仲間と楽しく過ごしたいから、取引先との大事な接待だから、そんなことはどうでもいい。

 

自分自身の飲酒に対する適性を把握しているならば、いくらでもコントロールできることだ。

 

あげくの果てに急性アルコール中毒で死亡とか、残された遺族も悔やむに悔やみきれないだろう。

 

私は酔っ払いについて、すべて自己責任だと思っている。

飲まされた、ではなく、最終的にアルコールを咽頭内に進行させた時点で、本人の責任だ。

 

 

ちどりあしのサラリーマンは、私の隣りへ座った。

そう、酔っ払いくらいしか私の隣りには座らない。

 

自立姿勢を保持することができず、斜めにずり落ちながら、携帯をいじっている。

 

とその瞬間、

 

酔っ払いが突然嘔吐した。

 

 

私はとっさに立ち上がり避けたが、怒りと殺意が沸き起こった。

 

これは公共交通機関である山手線だ。

その電車内に吐しゃ物があれば、乗客は乗車できない。

すでにいる乗客もみな、車両を移動するため立ち上がっている。

 

勝手に飲み過ぎ、勝手に酔っ払い、終電に間に合うように都合よく電車に乗り込み、勝手に嘔吐した酔っ払い。

 

なぜこれが許される?

 

 

私は連結部のドアにもたれかかりながら酔っ払いを見下ろしていた。

この車両には、私と酔っ払いと、遠くに数人しか乗客はいない。

 

その酔っ払いは、着座したまま足元に嘔吐し、横へずれた。

その後もまた、斜めにずり落ちながら携帯をいじっている。

 

私は思わず、声をかけた。

 

「おい、おまえが吐いたんだから、自分で床きれいにしろよ」

 

酔っ払いはこちらをチラリと見て、軽く笑ってまた携帯をいじりはじめた。

 

「聞こえてんなら、拭けよ」

 

もう一度、私は言葉を発した。

すると、

 

「拭くものがないんで、とぅいまてーん」

 

・・余計なことを言わなければいいものを、酔っ払いは酔っぱらっていたため、無責任かつ私を怒らせる発言をした。

 

私は酔っ払いに近づき、酔っ払いが抱えていたスーツのジャケットを奪い、吐しゃ物の上に放り投げた。

慌てた酔っ払いは、立ち上がると同時に転んだ。

運悪く、自分の吐しゃ物の上にかぶせたジャケットの上に、顔面から突っ込んだ。

 

酔っ払っているがゆえに体のコントロールができず、ジャケットと吐しゃ物の上でバタバタともがいていた。

その結果、なんとなく床を拭いているようにも見えた。

 

 

ーーそれでいい

 

自分の体内から放出した汚物で、公共交通機関を汚したのだから、自分の持ち物でキレイにすればいい。

ティッシュや新聞紙など、清掃用品(?)を持ちあわせていなかったことは不運だが、それも自業自得。

ジャケットのクリーニング代がいくらかかろうが、知ったこっちゃない。

 

 

これに懲り、今後は悪酔いなどせぬよう、彼自身のトラウマ、いや、教訓となることを切に願う。

 

 

※この話は、概ねフィクションです

 

Illustrated by 希鳳

 

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