歌舞伎町のSM女王誕生秘話

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こんなLINEが来たら誰だって驚く。

しかも深夜に。

 

 

誤字具合からしても、よほど緊迫した状況がうかがえる。

 

・・普段からこの程度の誤字はある友人だが。

 

既読になることなく、通話もつながることなく、翌日の昼過ぎに不通となった。

 

充電が切れたのか携帯を破壊されたのかは分からない。

ただ、二度とつながることはなかった。

 

ーーこんなの事件以外にあり得ない展開だろ

 

私は焦った。

警察に届け出るべきか、その前に身内で自主的に捜索すべきか。

 

そのとき私は初めて気が付いた。

 

私は、彼女のフルネームも知らなければ、住所も電話番号も彼氏の名前も(ニックネームは知っている)、職場や友人すら知らなかった。

 

たしか新宿の飲食店で働いている、と聞いていた程度で。

 

彼女との出会いは、、、忘れた。

 

私には極度の忘却癖がある。

それは自他ともに認めるかなりのレベル。

記憶がスッポリ抜けるのだ。

 

そしてタチが悪いことに、忘れた本人は忘れたつもりがないので、指摘されると猛烈に反発する。

 

「知らない」

 

「絶対に知らない」

 

(逆ギレ)

 

といった具合に、周りがドン引きするほど真剣に「知らない」と言い張りキレる。

 

まぁいいや。

 

つまりこの危機的状況で警察へ届け出たとしても、何という人物の捜索願を出せばいいのかが分からないのだ。

 

 

ーーつながらないLINEに何度もトライしながら、2年が過ぎた

 

殺されたらニュースになるだろうから、きっと殺されてはいないのだろう。

 

**

 

「私は社労士です」

 

しかしたまに、

 

「私は風俗ライターです」

 

と自己紹介する時がある。

そんな「筆者」の仕事の昼下がり。

 

その日は、いま流行りのオナクラ潜入取材だった。

密着させてもらう男(客)と新宿駅で待ち合わせ、プレイ部屋のある雑居ビルへと向かった。

 

「普段どんなフーゾク行くの?」

 

「最近はオナクラが多いかな。

あ、でも一つヤバイ店がある。

そんなの詐欺だろ?って感じなんだけど、絶対ハマるよ」

 

なんだそりゃ。

 

そのハマるフーゾクはSMクラブだった。

女王様のやり方がとにかく斬新だと。

しかも男女関係なく女王様のもとへ足繫く通うのだそう。

 

(ふーん、なんか一本書けそうだから帰りに寄ってみよ)

 

 

プレイ部屋に着くとキャストの子と名刺交換。

どうぞ始めてくださいと促すと、プレイを横目にPCを開き原稿を仕上げる。

 

オナクラが無事終わり、私は例の女王様の店へと向かった。

 

さすがに当日アポで即取材は難しかったので、私が「客」で行くことにした。

どのみちドMだから相性はいいはず。

 

さっきの男から聞いた女王様の特技は

 

「完全放置」

 

客を後ろ向きに座らせ放置したあげく、一ミリも一秒も触れることなく、ほとんど声もかけずに終わるのだそう。

 

SMなのに、鞭で叩かれることもハイヒールで踏んづけられるこども、縄で縛り上げられることも言葉攻められることもないのだそう。

 

・・それの何がいいの?

 

よくわからないが、最後に正面を向かされて一言、

 

「もっと見てあげようか?」

 

その一言で客は昇天するのだそう。

 

(そんなことあるかいな)

 

とにかくその女王様の「目」がヤバいらしい。

背後からでも感じる、強い目力がハンパないと。

 

(そんな目力があるなら軍事力に活用したほうがいいんじゃないの)

 

 

到着。

歌舞伎町のど真ん中からちょっと外れた、火山会館の近く。

 

雑居ビルの5階、

「SMクラブ デラヒーヴァ」

なんとも卑猥で、バックを警戒しなければならない名前だ(柔術ネタ)。

 

中学か高校の教科書で見たパルテノン神殿の入り口に立ち、無駄に重厚なドアを開けた。

 

 

・・・え

 

 

出迎えてくれた女王様は、2年前に行方不明になった友人だった。

 

 

話しを聞くと、あのとき拉致られコンクリート詰めにされかけたとき、

 

「コイツ風俗売り飛ばしとけ」

 

の一言で助かったのだそう。

しかしそこから地獄の日々が始まった。

 

朝から晩までM男の相手をし続けた。

そのうち、どうせこんなくだらない仕事をするならトップに立ってやろう、と考え始めた。

 

試行錯誤の末にたどり着いたのが

 

「なにもしない」

 

究極のドSプレイだそう。

今では彼女を拉致った反社の人たちまで、

 

「女王様!!」

 

と彼女に跪くのだそう。

 

 

ーーあれから2年

彼女は、歌舞伎町のSM女王に成りあがっていた。

 

 

**

 

携帯を握りしめて寝ていた私は、LINEを受信して目が覚めた。

 

 

そう。

私は、彼女がSM女王に成りあがった夢を見ていた。

 

 

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