一介の社労士が法改正に斬り込むまでの経緯

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2013年(平成25年)2月、クライアントであるプロスポーツ選手が、試合中にケガをして病院へ搬送された。

そのとき、病院で提出した保険証が「健康保険証」だったため、会計の際に「全額自己負担」を求められる事件があった。

 

なぜ、「全額自己負担」だったのかというと、プロスポーツ選手にとって試合は「業務」だから、業務中のケガについて、健康保険の給付は受けられない、という法律上の決まりがあるためだ。

健康保険法 第一条

この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

 

この事件の半年前、シルバー人材センターに登録し、庭木の剪定作業中に負傷した男性の報道があった。

 

当該男性も、病院で健康保険証(予想だが、家族に扶養されていて、被扶養者として健康保険証を所持していたのではないか)を提出したところ、冒頭の理由と同様に、健康保険証の使用を拒否された。

 

シルバー人材センターに登録する会員は、作業の対価として報酬を受け取るが、それは労務の対価としての賃金ではない

あくまで、請負(委任)契約による作業料金を受け取るという仕組みだ。

 

よって、「労働者ではない」イコール「ケガをしても労災は使えない」となる。

 

一般的には、個人事業主は「国民健康保険」に加入する。

そして国民健康保険は、業務中のケガでも給付を受けられる。

国民健康保険法 第五条

都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする

国民健康保険の被保険者には、適用除外がある。

健康保険や共済組合の被保険者、生活保護者、後期高齢者医療制度の被保険者(75歳以上の人)などは、除外される。

 

日本の健康保険制度は「皆保険制度」のため、日本に住民票のある人は、いずれかの保険制度に加入することとなる。

 

絶対にどこかの保険制度に属している。

 

つまり、一つ属していたら他には属せないのだ。

 

プロスポーツ選手がデュアルキャリアとして会社をつくり、代表取締役に就任したとする。そして役員報酬が発生する場合、健康保険への加入が必須となる。

これは前出の、国民健康保険法の被保険者の適用除外となる、健康保険の被保険者になるため、それまで国民健康保険に加入していた場合は資格を喪失し、新たに、健康保険の被保険者となる。

 

これが、法律上定められたルールだ。

 

にもかかわらず、強制的に健康保険の被保険者にさせられたプロスポーツ選手が試合でケガをしたら、

 

「業務上のケガですから、健康保険は使えません。

よって、全額自腹でお願いします」

 

などと、よくぞ恥ずかしげもなく言えたものだ。

ルール以前に、おかしいと感じないことが、おかしすぎる。

 

 

私は、関係各所へ確認するなか、末端が騒いでも変わらない(法律間の落とし穴だから)ことを知り、国会議員(厚生委員会)を呼び出し、法改正を提案した。

 

この提案の数か月前(平成24年11月5日)、厚生労働省からの通達で、健康保険と労災保険の適用関係についての取扱いが明文化されていた。

これらも後押しとなり、国会での審議を通過。

2013年(平成25年)10月1日に施行された、改正健康保険法(平成25年法律第26号)の第一条により、請負業務やインターンシップ中の負傷について、労災適用とならない場合に健康保険から給付が受けられることとなった。

もちろん、プロスポーツ選手(個人事業主)の試合中のケガも含まれる。

 

法改正の条文チェックに一介の社労士が携わることなど、普通ではありえないことだが、そんな貴重な経験もさせてもらった。

 

そして、驚くほど役人(議員は当然のこと)がザルだということも、身をもって知った。

 

 

ものごとを大きく方向転換させるためには、末端が騒いでも変わらない。

 

点滴穿石(てんてきせんせき)は美しい表現だが、そんなものを待っていたら、苔も生えるだろう。

 

さっさと大きなかじ取りが必要なとき、政治力が手段としてはベスト。

 

だからこそ、まともな人材で政界を組成してもらいたい。

 

法律の素人が正義感だけで弁護士の業務ができるか?

医学の素人が志だけで医師の業務ができるか?

専門家はそれぞれ、専門的な勉強を最低限クリアした上で、実務経験を積んでからの独立(一人前)となる。

 

民主主義だから、自由の国だからと、政治家の業務というものを、勘違いしている政治家や候補者、政治家を目指す人が多すぎる。

 

その鬱陶しいパフォーマンスは、せめてそれに見合うだけの実力を兼ね備えてからにしてもらいたい。

 

 

——某政治家のパフォーマンスを尻目に、7年前の回顧録の筆を置く。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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2件のコメント

凄いなー

その腕力でミネソタやテキサスみたいな
オープンキャリーOKにして欲しい

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