リトル・アカサカ

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赤坂にあるたこ焼き店の前で、何人かの客がたむろっている。かくいうわたしもたこ焼きを買うためにここを訪れたので、この輩たちが注文待ちなのか受け取り待ちなのか、どちらなのかを確認しなければならない。

「あのぉ、並んでますか?」

手前に立っているオトコに声をかける。するとオトコは顔の前で手を振ると、サッとその場から退いた。——これは、日本語が通じていない気がする。

 

夜の赤坂にはびこる人間など、日本人かどうかなどもはや見た目では判断できない。とくに中国・台湾・韓国あたりは、ファッションセンスが微妙に異なる程度しか、日本人との違いを見抜くことは難しい。

そしてこのオトコも、およそ日本人ではなかったのだろう。とはいえ、適当な確認でわたしが割り込んでしまっては、国際問題に発展しかねないため、念のため英語で尋ねてみた。

「Have you ordered yet?」

すると、そのオトコの連れと思われる女性が慌てて、

「Not yet. We wanna do but…」

と、困ったような笑顔を浮かべながら事情を説明してくれた。彼女らは韓国人だろう。二人の会話は聞こえないが、女性のメイク——とくに目尻のアイライン——が、ものすごく韓国風だったからだ。おまけに流暢な英語を話すあたり、韓国人で間違いないだろう。

 

ちなみに店内を覗いてみると、狭い空間にギュウギュウ詰めの客たちをさばききれていない様子。イートインスペースから矢継ぎ早に注文が飛び交い、そのたびにバイト3人は右往左往のてんてこ舞いだった。

さらにアルバイトは全員外国人、カタカナで書かれた名札が初々しい。彼らは東南アジアからの留学生だろうか、名前の感じがミャンマーやベトナムっぽいのが特徴的である。

 

ふと周りを見渡すと、他にも何人かの客がなんとなくもじもじしていることに気が付いた。——しかたない、こいつらにも確認しておくか。

「あのー、並んでますか?」

その場にいる4人に日本語で話しかけると、全員が全員、挙動不審になりわたしに道を譲ろうとするではないか。——そうか、こいつらも日本語が通じないんだな・・。そこでわたしは再び英語で話しかけると、たこ焼き店の前にたむろする人間たちの状況を整理した。

 

まず、最初に話しかけた韓国人カップルは未注文で、何度か注文を試みるも店員に無視されている。

そして次に話しかけた眼鏡のオトコ(中国人)は、10分前に注文済みでたこ焼きが出来上がるのを待っている。

その隣でもじもじしているオンナ(中国人か?)も、すでに注文済みだがカネを払っていないとのこと。そのため、たこ焼きを作ってもらえるのか不安なのだそう。

さらに、その奥でレシートを握りしめるカップル(欧米風)は、やはり10分以上前に注文したが、このまま黙って待つべきか否か判断に困っている模様。

 

こうして現状を把握したわたしは、母国たる日本を代表して、たこ焼き店の店員(ミャンマー人)に掛け合うことにした。

「あのぉ・・」

ガン無視される。

「Excuse me, may I order?」

こちらをチラッと見ると、

「Hold on one sec!」

と、怒られた。

 

・・・そう。ここは日本ではない、どこか異国の地なのだ。だからこそ、"日本語が通じる日本のたこ焼き店"などといううぬぼれた考えに浸っていては、痛い目に遭うのだ。

大忙しの店員が落ち着くのを待つと、韓国人カップルと自分の注文を済ませ、さらにその場にいる全ての客の状況を確認した。そしてそれぞれに現状を説明すると、みな安堵の表情でスマホをいじり始めた。

(これぞ"おもてなし"か・・・)

 

 

つまり赤坂には、一部"外国エリア"が存在するのだ。海外旅行など行かずとも、わりとリアルな海外の日常を、たったの800円で体験できるというお得感。

もしかすると、日本人よりも外国人——しかも、アジアのみならず欧米含む広範囲の外国人——のほうが多い赤坂は、近い将来の「日本の縮図」なのかもしれない。

 

サムネイル by 希鳳

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