しゃがめの一歩

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わたしは自分のことを、ネタで「ゴリラ」とか「旧石器時代のヒト」と言うことはあるが、まさか本気で思うはずはない。その方が面白いし、若干そっち寄りであることは間違いないので、イメージがしやすいだろうと思って使っているだけで。

だが今日、もしかすると本当にゴリラもしくは旧石器時代のヒトだったのかもしれない、と疑う出来事があった。

仲の良い友人らは、わたしのことをかなり本気で「ゴリラ推し」しているのだが、それはつまり、本当にゴリラの可能性があることに気づいていたからなのだろうか。

 

今日の出来事は、わかりやすく例えるとこうだ。

「しゃがまなければ通れないような、明らかに背の低い出入口を通る際、そのまま歩いて行った結果、頭をぶつけて怪我をした」

これを見た人々は口をそろえてこう言うだろう。

「いやいや、しゃがめよ!」

そうなのだ、その通りなのだ。

 

この「頭をぶつけて怪我をした側(わたし)」の意見としては、

「この出入口が、まさかこんなに低いとは思わなかった」

と、真剣に思っている。さらに何度も同じ怪我を繰り返すのだが、その理由はこうだ。

「今回は通れると思った」

――いかがだろうか。このような意見(?)を聞いたとき、普通の人ならば首をかしげるだろう。だがわたしは、本当にこのように思っていたし、「通れる」と信じていたのだ。毎度毎度アタマをぶつけることに関しては、

「今回こそ、頭はぶつからないはず!」

と固く信じていた。そして見事に毎回、頭をぶつけて怪我を負うのだ。普通のヒトならばさすがに一度ぶつければ気がつくし、背の低い出入口を見たら「注意しよう」と思うだろう。だがわたしには、その感覚がまるでなかったのだ。

なぜかは分からない。当事者であるわたしに分からないのだから、この世の誰にも分からないだろう。

 

この件について、友人から再三にわたって注意を受けていた。

「あの出入口を通るときは、普通に歩いたらぶつかるから、屈(かが)まないとダメだよ」

これを聞いたわたしは、内心「わかった」と理解を示すもどこか他人事で、自分の行動には関係のない話だと思っていた。決して、忠告を蔑(ないがし)ろにしたとかではない。ただ単に、自分の身に降りかかる災難とは思えなかったのだ。

 

ところが今日、低い天井に何度も頭をぶつけるわたしは、ようやくそれを「自分事」として認識することができた。まさに、アファール猿人から人間に進化したかのような、いや、類人猿から猿人への進化の方が適切かもしれないくらい、劇的な進化を遂げたのだ。

「頭をぶつけそうになったら、頭をさげたり屈んだりする」

これを理解(認識)するのに、およそ数百万年かかったであろうわたしは、本日めでたくヒトとしての一歩を歩き出した。

 

 

わたしのことを非常によく理解している友人に、ヒトへ進化したことの報告をすると、こう返事がきた。

「URABEのことをゴリラだとか縄文人だとかいう奴は、ガワを見てるだけだ」

――どういうことだ?しかし見た目がゴリラという部分に関しては、否定しないのか?

「俺からしたら、URABEは自然災害だと思ってる」

何を言ってるんだ?それは物体ではなく現象だ。

「いや、本質だ」

 

わたしは言葉を失った。この友人は、わたしのことを表面的な見方をしていたのではなく、本質で見抜いていたというのか。

それにしても自然災害とは、一体どう捉えたらいいものか全くわからない。少なくとも褒め言葉ではないだろう。だが「本質」といわれると、なんだか奥が深くてカッコいい響きがするから不思議だ。

 

 

「ほら、このまま行ったら頭ぶつけるでしょ?」

飼育係が実演してくれるが、まぁたしかにぶつけるでしょうな、という感じ。

「じゃあしゃがまずに歩いてみなよ、ほらぶつかった!」

たしかに頭をぶつけた。なぜだ。

「もう一度やるから見てて、ほら、これじゃ頭ぶつかるよね?」

そう言いながら再度、天井に頭をぶつける飼育係を見て思った。思ったというか、その姿に自分が重なって見えたのだ。

(あ、わたし頭ぶつける)

飼育係のその先に、いるはずのない自分を見た。たしかにあれでは天井にぶつかる。なぜわたしはしゃがみもせずに歩いていたのだ?

「だから、ぶつけないように腰を屈めたり頭を下げたりして通るの!」

呆れ顔でそう吐き捨てる飼育係を見ながら、わたしはこれまでの愚行を恥じた。出入口の高さは変わらないのだから、自分が低くなれば通れるじゃないか。なぜそんなことが分からなかったのかが、分からない――。

 

人類の進化には根気強さも必要だが、それよりなにより一瞬の偶然や一瞬のひらめきこそが、大きな一歩を与えてくれるのかもしれない。

 

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

 

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