ーー頭蓋骨って頑丈なんだな
意識が戻りしばらくしての感想は、これだった。
私はどうやら失神し、不可抗力のなかで卒倒したらしい。
しかも石でできた硬い床へ、頭から一直線に。
第一発見者、すなわち一部始終を見ていた人物いわく、
「生き物じゃない、人形かなにかが倒れた感じだった」
とのこと。
てんかん発作で卒倒した人を見た時、私も同じ感想を持ったので、多分あんな感じだろう。
そしてきわめつけが、
「頭がバウンドしたんだよ、石の床で」
これはさすがにゾッとする。
しかし頭にも石畳みにも血痕は見当たらない。
救助者は私の後頭部を支えながら、
「あー、コブになってる。ものすごい音したし」
と心配する。
いや、それ(後頭部が出てる)は生まれつきだ。
*
なぜ失神したのか、その理由は割愛する。
明らかに私に非があり、非難されるのが目に見えているからだ。
しかし今思うと、一歩間違えば大事故につながっていたわけで身震いする。
失神発症時の転倒の仕方は主に3種類。
座位型、くず折れ型、転倒型。
読んで字の如くだが、立位で発症する失神はくず折れ型か転倒型のいずれか。
徐々に血圧が低下し、崩れ落ちるように倒れるのがくず折れ型なのに対し、突然の血圧低下により失神する転倒型は、頭部や顔面の外傷を伴うリスクが高い。
私は今回、間違いなく「転倒型」で倒れた。
そして見事に頭を石の床に打ちつけたわけで、頭が割れてもおかしくはない。
にもかかわらず、頭部はおろか顔面も肩も背中も、どこにも痛みや打撲がみられないのだ。
目撃者いわく、大木が倒れるかのように真っ直ぐバタンと倒れた。
そしてものすごい音とともに全身が跳ねたのだそう。
目が覚めると私は、冷たい石の上で横たわっていたわけで、頭を打っていないわけがない。
では何故ーー
*
意識を消失していた間、私の体は痙攣し、両手は変な方向に折れ曲がり、指も手首も固まっていたとのこと。
目をまん丸にひん剥き、むしろ目が飛び出ているかのような恐ろしい形相で、左右の視点は定まらない。
顔を叩かれ名前を呼ばれ、ふと蘇ったとき、私は夢を見ていた。
それは幸せな夢だった。
もしあの時、打ちどころが悪く死んでしまったとしても、私自身は幸せだった。
死ぬことが幸せなのではなく、痛みも苦しみもなく幸せな夢を見ながらいつのまにか死んでいるのだとしたら、べつに悪くないな、と。
本当に、数ミリの差で私は生かされたのかもしれない。
頭部や顔面に傷や打撲がないことについて、落下途中に絶妙な距離感で頭が壁に触れ、偶然にも伝うように床へ着地したのだろうか。
では、目撃者の言う「ものすごい音」とは、どこがどこにぶつかった音なのか。
そしてバウンドした頭は、一体どのように衝撃を吸収したのか。
今となってはまったく分からない、謎だ。
そういえば若干、左臀部に痛みを感じる。
おそらく打撲したのだろう。
とは言え、全身が硬直した状態で転倒し、いくら尻がデカいからといって、ここだけで衝撃を吸収したとは考えづらい。
少なくとも頭が床に落ちる瞬間、それなりの衝撃を受けているはずで。
そこで思うのは、もしかすると日頃の柔術のおかげで打たれ強くなったのか、ということ。
そんなはずがないのは百も承知。
ただ、それ以外に当てはめることができないほど、謎なのだ。
*
意識が戻った瞬間、現実を見た私は思った。
「よかった、今日もまだ見えてる」
いつだって目を開けた時、私は思う。
今日もまだ見えてるんだ、と。
つまり私にとっては、死ぬことよりも目が見えなくなることの方が恐ろしい。
頭部への衝撃は網膜を脅かす致命傷となりかねない。
捉え方によっては、人生におけるデカい運をここで使ったのかもしれない。
だが、
本当によかったと思ったことがもう一つある。
「昨日、VIO脱毛しといてよかった」
じつは全裸で倒れた私。
もしも救急車で運ばれたとすれば、一糸まとわぬ生まれたままの姿ということになる。
二度と会わないであろう救急隊員だとしても、彼らの脳裏に焼き付く私の裸体は、つるんと毛のない状態であってほしい。
生死をさまよう状況においても、女としてのプライドというやつは、無意識に湧き上がるものなのかもしれない。
Illustrated by 希鳳
おかしい…
そんな衝撃的な倒れ方をして無傷…
いや、もちろん無事でよかったんですけどね!
VIO、わかりますー(笑)
私はまた行き直さないとなぁー
次はやっぱ医療脱毛にしますわ
ほんとだよ。
VIOだけは何もなくても手入れしとかないとダメだな。
この世は、いつ何があるか分かったもんじゃない!
本当にご無事でなによりです。。追い込んでお仕事か何かなさっていらっしゃるのでしょうか。あまりご無理なさらないでください。。
飲酒後に風呂入って倒れました。
単なるバカです。
追い込まれる仕事があるならやってみたいもんです。