近所にケバブ屋がある。
ケバブはトルコ(中東)料理。
切り株ほどのデカい肉を突き刺した串が、店頭でゆっくりと回転しているドネルケバブ(訳:回る肉)の姿は有名だ。
そしてこの食べ物、減量にはうってつけ。
鶏肉を回しながらローストするため、余計な脂分を落としつつうま味をキープ。
少なくとも私は、試合前の減量時で腹いっぱいになりたいとき、このケバブ屋へやってくる。
そして注文するのはただ一つ、
「キャベツケバブ660円(税込み)」
これだけだ。
キャベツケバブは字のごとく、キャベツとケバブ(鶏肉)が何層かに積み重なったもの。
最下層からキャベツ、ケバブ、ピクルス、キャベツ、ケバブ、キャベツという順で形成される。
そして、盛り上がったキャベツを容器のふたでギュウギュウ押さえつけながらセロハンテープで留め、無造作に手渡される。
容器からはみ出たキャベツごとセロハンテープで留めてくるあたり、トルコチックだ。
ちなみにソースを選べるのだが、私は甘くも辛くもない「ミックス」を好む。
マイルド(甘い)だと間延びするし、オリジナル(辛い)だとヒーヒー言いながら食べることになる。
その点、この2種類が混じった「ミックス」ならば諸々回避できる。
これは嘘のような本当の話だが、キャベツケバブを山盛り食べた翌日、体重はまったく変動しない。
むしろ減ることすらある。
がっつり食べて寝て起きても体重に変動がない、などという素晴らしいメニューがあるだろうか。
ましてや鶏肉はタンパク質、キャベツは食物繊維にビタミンC・Kと、必要な栄養素が十分に摂取できる。
細々と食いつないでいた日々が嘘のように、チートデーでもないのに満腹になれるキャベツケバブ。
ぜひとも、声を大にしてオススメしたい。
そして今日、減量しているわけではないが久しぶりにケバブ屋の前を通った。
正確には「もう閉店しました風」な消灯にもかかわらず、歩道にはライトアップされた看板が出ていることを疑問に思い、ちょっと覗いてみたのだ。
時刻は21時。
緊急事態宣言発令により、都内の飲食店は20時までで閉店を余儀なくされている。
だが店内飲食が20時までであり、テイクアウトは可能。
ご多分に漏れず、このケバブ屋も20時にイートインを終了し、通常の閉店時間である22時まではテイクアウトのみでオープンしているようだ。
しかしなんともトルコチックなのは、店内はすでに消灯しているにもかかわらず、微妙に明るい「照明の代わり」が何であるか、ということ。
ゆっくりと回る串刺しケバブの脇から店内を覗く。
5人ほどのトルコ人ファミリーが、暗い店内でギャンギャン議論を交わしている。
その家族を照らす灯は、テレビ。
薄暗い店内にはトルコ人しかいない。
トルコ人の店員はじっとテレビを見ている。
トルコ人ファミリーはテレビの明かりを頼りに、テーブルを囲み議論を続ける。
その状況はやや懐かしくもあり、日本ではありえない光景だった。
それでいて店の外には、まぶしく光るLEDで縁取られた膝の高さほどの立て看板が、無駄に存在感を示す。
一見、やっているのかいないのか分からない雰囲気。
チラッと店を覗くも、半信半疑の日本人らはそそくさと通り過ぎていく。
だが常連の私は、店内で議論を交わす一人のトルコ人に手招きされ店へと入る。
そう、この5人は全員従業員だ。
トルコ語はまったく分からないが、私が店内に踏み込むと本日のアルバイトがサッとキャベツに手を伸ばす。
もはや私は顔パスで「キャベツケバブ」なのだ。
電子マネーで660円を払い、店を出る。
振り返るとやっぱり、テレビしか点いていない薄暗い店内は閉まっているように見える。
煌々と光る小さな立て看板は、きっとしまい忘れたのだろう。
ーー客なんて来ても来なくてもどっちでもいいよ、と言わんばかりのこの感じ、日本人経営者には真似できない営業のしかただ
コメントを残す