完璧な菓子折り

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(完璧な菓子折りだ・・・)

わたしは今日、完璧な菓子の詰め合わせをもらった。なにが完璧かというと、詰め合わせの内容が完璧にわたしの好みだったのだ。

 

 

かの有名な、北海道を代表する菓子メーカーである六花亭の折箱を手渡されたわたしは、その大きさに溢れ出る期待を隠せないまま、いそいそと帰宅した。

そして手を洗い身を清め、姿勢を正して菓子折りのフタを持ち上げたところ、そこには眩いばかりの六花亭を代表する菓子たちが鎮座していた。

 

(おぉ、まぶしすぎる・・・)

久々に対峙する六花亭の菓子は、東京に住むわたしにとってはかなり貴重でまぶしいものだった。

銀色の包みに赤とゴールドの模様が彫られた「マルセイバターサンド」を筆頭に、銀色の部分が黄色でできた「マルセイバターケーキ」、同じくベージュでできた「マルセイバターケーキくるみ」、そして赤い包みの「マルセイビスケット」、さらには透明な包みに入った「マルセイキャラメル」といったラインナップが神々しいオーラを放っている。

 

このあたりがわたしの好みであることは、友人ならばおよそ見当がつくだろう。しかし、マルセイシリーズ以外の菓子はあまり触れたことがないため、見るからに怪しげな個包装を訝しげに眺めながら、とりあえず食べてみることにした。

(もらいものだし、食べてみなけりゃお礼が言えないからな・・・)

 

怪しげな個包装・・というのは、要するに「あんこが入っている可能性がある菓子」ということだ。なんせ、最中(もなか)が入っているわけで、こんなものあんこが挟まっているに決まっている。

とはいえ、一つや二つくらいのあんこ菓子ならば、さすがに摂取することができるようになったわたし。だからこそ、北の大地の恵み=六花亭のお菓子ならば、美味しくいただくことができるはずである。よし、いくぞ——。

 

覚悟を決めたわたしは、白い包みの「おかげさま」という菓子に手を伸ばした。どうやら最中でできた和菓子のようだ。

それにしても最中というやつは、唇や口内にペッタリはりつくから厄介だ。だからこそ、中央に閉じ込められているあんこが転がり出ることなく存在できるのだが、それにしてもこんなものが美味いと感じる者がいるとは・・・

 

(んん!!!あんこじゃない、チョコだ!!!)

なんと、色も見た目もあんこだが、その味わいはヘーゼルナッツチョコである。そう、最中の中身は"ジャンドゥーヤ"だったのだ。

ジャンドゥーヤとは、焙煎したヘーゼルナッツなどを砂糖と合わせてペースト状にし、クーベルチュールとミックスさせたチョコレートのこと。まるであんこのような舌ざわりを再現しているが、これはまぎれもなくチョコレートである。

 

喉の奥ににはりつく最中を気にすることもなく、わたしはこの驚きに似た感動に後押しされながら、あっという間に「おかげさま」を完食した。

あと10個は食べられるであろう軽くて食べやすい食感に、図々しくもやや物足りなさを感じたほど、想像以上に満足したのである。

 

(とはいえ、これは絶望的だろう・・・)

まさかの"最中が美味かった事件"を経て、次は残念ながらはずれである。なぜなら、その名も「べこ餅」という、半透明の白い餅に茶色の風車のような模様が描かれた和生菓子だったからだ。

 

さすがに、この茶色があんこであるはずはないと思うが、間違いなく餅の中央にはあんこが潜んでいると思われる。

ちなみに「べこ餅」とは、昔から北海道民に愛される郷土菓子で、端午の節句の際に好んで食べられるのだそう。

(季節ものだし、ありがたくいただいておこう)

わたしもオトナなので、いつまでも好き嫌いを通すわけにはいかない。ここはひとつ、オトナの対応をしようじゃないか——。

 

半ばあきらめ気味にべこ餅に齧りついたわたしは、茶色い風車の味に驚かされた。なんと、茶色の部分はあんこではなく、黒糖でできていたのだ!!!

 

風車の部分が「宿敵・あんこ」だと思い込んでいたわたしは、まさかの黒糖に感動を覚えるとともに、あんこではないかと疑ったことへの謝罪を述べた。

(本当に申し訳なかった、黒糖とあんこを見間違えるとは・・・)

こうして、あっという間にべこ餅をのみ込むと、今度こそわたしは期待と疑いの眼でとある個包装に目をやった。

 

その名も「雪やこんこ」。紅葉した広葉樹に雪が降り注ぐイラストが描かれたその焼菓子は、中身がまったく見えない仕様となっている。

こういうものに限って、まさかのあんこが入っていたりするものだ。しかも名前が「雪やこんこ」と、完全に和風テイストではないか。想像するに、「雪」を印象づけるためにも"黒いなにか"でコントラストを強調しているはず。

そして"黒いなにか"といえば、そんなものあんこに決まっている——。

 

・・まぁいい。ここまで驚きと感動を与え続けてくれたのだから、ここへきてあんこが登場したところで、残念な気持ちにはなるまい。

なんせ天下の六花亭である。あんこの味だってきっと、そこそこ美味いに決まっている——。

 

まったく期待などせず、雪やこんこの包み紙を破り開けたところ、そこには肥沃な土壌を再現したかのようなブラックココアのビスケットに、北海道の大雪原を彷彿とさせるようなホワイトチョコレートがサンドされた、見事な菓子が眠っていた。

オレオのようなカラーリングだが、雪やこんこには繊細な高級感がある。そしてなにより、ホワイトチョコレートのお味がさすがは六花亭。期待せずに食べたことを後悔するほど、期待以上の美味さだった。

 

 

そんなこんなで、あっというまに菓子折りすべてを食べ尽くしたわたしは、改めて、このラインナップをチョイスした友人を見直した。なんせ、一つのミスもなく、完璧にわたし好みの商品のみを詰め込んだわけで、そのマインドというか根性には脱帽である。

仮にわたしならば、これだけの種類を選ぶのにちょっとくらいのミスには目をつむるだろう。たとえば原材料に小豆が入っているとか、そのくらいの些末なミスはあって然り。

ところが友人は、針の穴を通すがごとき完璧なチョイスを見せたのだから、これはもはや感服に値する。

 

やはり、持つべき友は「完璧な菓子選びができる地方在住の猛者」に限るのだ。

 

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