緑色の日

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(・・あれ? 以前はなんの店だったかな)

気がつくと、コロコロ店が変わっているテナントがある。都市伝説界隈を漁れば、なんらかの理由が出てくるのではなかろうか・・と思うほど、その場所で商いをしてもまったく続かないのだから不思議である。

しかも、そういう場所に限って立地条件が悪いわけではなかったりする。たとえば駅チカだったり目抜き通り沿いだったり、どう考えても人の往来があるにもかかわらず、どんな系統の店がオープンしても半年と持たないのである。

 

「多分ねぇ、吉野家とかマクドナルドとか大手チェーン店でないとダメなんだよ」

友人宅の最寄り駅構内に、いつまで経っても店が定着しないテナントがあるのだが、彼女はこのように分析した。

 

これまで、洒落たカフェやどこぞの蕎麦屋ができたところで、しばらくするとなぜか姿を消していた、都内某駅構内。東京メトロ沿線の駅ゆえに、決して田舎でも不便なわけでもない。それでもなぜか、気付くと店が変わっているのだそう。

そしてその理由として、「テナントの賃料が高額であることから、零細・中小企業では持続不可能なのではないか?」という見解を、友人は示したのだ。

 

たしかに、これは一理あるだろう。とくに"駅ナカの飲食店"で切り盛りするとなれば、一品の単価を上げたところでたかが知れている。ましてや、駅を出れば有名な飲食店が立ち並ぶ地域であれば、なおさら駅ナカで胃袋を満たす必要はないわけで。

となると、そんな恐怖物件であっても動じることなくやっていけるのは、店舗の赤字補填が可能な大企業しかない。よって、吉野家やマクドナルドが入れば、地下鉄利用客らも安心して改札を往来できるのである。

 

 

「お、フォーの店ができてる!」

久しぶりに通りかかった港区・溜池山王で、コロコロと店舗が変わる狭いテナントに、今度は"ベト屋"というハノイ風フォーの専門店がオープンしていた。

 

フォー(Pho)は、牛肉や鶏肉などの具材が入ったスープに、米粉で作られた平打ちの麺が入ったベトナムの郷土料理。あっさりとした透明感のあるスープは、ラーメンや蕎麦とは違う「優しい味」が特徴である。

そのため、風邪をひいたり体調不良だったり、食欲がないときでもフォーならば食べられる・・ということで、ベトナムでは大切な伝統料理として愛されているのだ。

 

ちなみに、シンプルな牛肉フォーや鶏肉フォーも魅力だが、そこへパクチーやネギなどをトッピングすることで、風味豊かなフォーへと変身する。

個人的には、さらに「ベトナムの魚醤・ヌックマム」をドボドボと注ぎ、塩味の効いた深い味わいのスープを楽しむのが、フォーの真骨頂だと信じている。加えて、生卵(黄身)をぶち込んでまろやかさをプラスするのも、オツな食べ方だろう。

 

そんなこんなで、久しぶりに本場のフォーを口にする機会を得たわたしは、パクチーとネギの大盛りに生卵もトッピングして、表面が完全に緑色で埋め尽くされた「スペシャル鶏肉フォー」に舌鼓を打った。

ついでに、「チェー」という名のベトナムスイーツ(フルーツやゼリー、白玉などにココナッツミルクを注いだもの)を初めて味わうなど、今日ここを通りかかったラッキーに感謝するとともに、どうかこの店は長続きするよう祈るのであった。

 

 

ベトナム料理で胃袋が満たされたところで、恒例の"食後のコーヒー"へと場所を移したわたし。ここ一か月の異常な暴飲暴食を反省している節もあったので、普段は4~5杯注文するところを、トールドリップとアイストールアーモンドラテで我慢することにした。

とそこへ、目の覚めるような美しい緑色が飛び込んできたのだ。なんとそれは、期間限定商品である「抹茶クリームドーナツ」だった!

 

スターバックスコーヒーは今月26日から、何種類かのフードメニューを年末年始の限定でリリースした。そのうちの一つが、この「抹茶クリームドーナツ」である。

まず、一目見ただけで思わずオーダーしてしまうであろう、抹茶チョコレートによるコーティングのしたたかさに、わたしはまんまと心を奪われた。

さらに恐るべきは、ドーナツ本体が抹茶味という贅沢な事実。通常、ここはプレーンドーナツでできているのだが、今回はスターバックスの本気度がうかがえる仕様となっていた。

そして最後に、一口齧りついた瞬間にドーナツの中心から流れ出る、抹茶クリームの甘ほろ苦さでノックアウト。

 

外観も内面も、どこをどう粗探ししたところで、称賛の言葉しか見つからないであろう美しい緑色で埋め尽くされた、絶品・抹茶ドーナツを眺めながら、わたしはふと思った。

(・・あれ?わたしって、緑色が好きなんだっけ)

 

目を閉じれば、フォーの表面を覆い尽くすパクチーとネギの鮮やかな緑色と、一瞬にして脳を麻痺させた抹茶クリームドーナツのしたたかな緑色という、二種類の「圧倒的な緑色」しか記憶に残っていなかった。

——そういえば少し前には香緑(キウイ)を食べたし、昨日はオリーブオイルたっぷりのズッキーニを食べたし、シャインマスカットは言うまでもなく好物だし、わたしは緑色の食べ物が好きなのかもしれないな。

 

とはいえ、抹茶こそが究極の緑色であり、抹茶を上回る緑などこの世に存在しない。

(仕方ない、ソイミルク変更の抹茶ラテでも買って帰るか・・・)

 

こうしてわたしは、緑色と共に生きていくのであった。

 

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