ほっともっときっと

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今はその名を耳にすることも少ないが、かつては「おばあちゃんの原宿」として、全国のおばあちゃんを魅了した町、巣鴨。春先にはJR山手線沿いの「すがも桜並木通り」のソメイヨシノが、圧巻の姿を披露する。初めてその様子を見たとき、わたしは思わず

「ここは目黒川?!」

と叫んだほどだ。なぜ目黒川を引き合いに出すのかというと、桜並木は当然のことながら、「すがも桜並木通り」はあたかも川沿いを走っているかのような作りでできているからだ。

 

巣鴨駅でのJR山手線は地上よりも低いところを走っているため、線路を見下ろす形で「すがも桜並木通り」があり、フェンスの向こうは川だとばかり思っていたわたしは、この立派な桜並木といい、川に沿った遊歩道といい、

「天下の目黒川の桜並木に、勝るとも劣らない素晴らしさだ!」

と感動したことを思い出す。

 

そんな巣鴨を歩いていると、ほっともっとの看板が目に入った。店の前まで行くと、そこは「ほっともっと」ではなく「ほっともっとグリル」と書かれている。

しかし店頭に貼られたメニューを見ると、弁当がたくさん紹介されており、ほっともっととの違いがわからない。とりあえず店内に入り、再びメニューを眺める。

(ハンバーグとかチキンとか、洋食屋さん系が多いな)

この読みが正しいかどうかは不明だが、その他にもオムライスやカキフライ、しょうが焼き、ナポリタンといったラインナップは、どう考えても「町の洋食屋さん」狙いだろう。

ということはその辺りを試してみるのがよさそうだ。

 

店内には券売機とカウンターがあり、現金かクレカならば券売機で注文できるが、わたしはご存じのとおり現金を持ち歩かない主義のため、カウンターでPayPayを使って支払いを済ませた。

今回注文したのは、

グリル野菜盛り合わせ/390円

バーベキューライスBOX/590円

焼きカルボナーラ/480円

お弁当屋さんのナポリタン/450円

の4つだ。本当はオムライスも注文したのだが、売り切れですと言われ涙を呑んだ。

 

弁当専門店である「ほっともっと」との大きな違いは、店内に大型オーブンが設置されており、たしかにグリル料理が得意そうな雰囲気であること。

メニューの名前も「なんとかプレート」「なんとかコンボ」「なんとかBOX」がデフォルトで、申し訳なさそうに「のり弁当」とか「から揚弁当」が載っている。

 

ハンバーグもチキンもしょうが焼きも両方の店に存在するが、ほっともっとグリルの方がなぜか美味そうに見えてしまうのは「グリル」という言葉のマジックだろうか。

 

 

(どれどれ、お手並み拝見といこうか)

 

帰宅と同時にグリル野菜へ箸を伸ばす。ナスやパプリカが彩りを添えているが、圧倒的なメインはキャベツだ。丸ごとキャベツを8分の1カットし、表面に焦げ目のついたしんなりシャキシャキキャベツこそが、この料理のメインを張る。

キャベツをグリルすれば美味いに決まっている。最近、料理に目覚めたこのわたしは、サツマイモや玉ねぎを丸ごとグリルして味わうのが日課。――そう、野菜本来のうま味はグリルによって最大限に引き出されるのだ。

付け足すと、バーニャ・カウダのようなコクのあるソースは、弁当屋の味というより洋食屋の味であると太鼓判をおす。

 

続いてバーベキューライスBOXへ移る。まず目を引くのは、真ん中に堂々と横たわる粗挽きウインナーだ。

「皮はパリパリ、中身はジューシー!」

って言ってくれ!といわんばかりの艶やかな輝きとネイティブのテンションを放つ、イケイケ金髪ボーイ(イメージ)。

 

その横には、グリルドチキンがゴロゴロ転がっている。やはり肉も野菜も「焦げ目」というのが重要だ。柔らかくて美しい素材の表面に、場違いなコントラストを焼き付けることで、素材のポテンシャルをさらに上げてしまうのが、この焦げ目の魔力。

美女と野獣など、まさに最たる例えだろう。美男美女ではファンはつかない。美女と野獣だからこそ、赤の他人でも応援したくなる恋物語となったのだ。

 

そして、ボックスの半分を占める牛肉と玉ねぎを醤油ダレで仕上げたカルビ焼肉に、緑黄色野菜を隅っこへ詰め込めば、この弁当の全貌が完成する。

 

さらに表面からは見えない肉の下には、白米が寝そべっている。白米評論家としては、ここだけは外せない。上部に乗っかる肉や野菜を食べ尽くすと、ゆっくり白米と対峙する。

 

白米という大地の上で繰り広げられた戦いは終わりを告げ、残るは穏やかな静けさと明日への希望といったところ。カルビのタレやチキンのエキスが染み込んだ白米は、もはや本来の白さを失っている。戦(いくさ)とはいつの世も残酷なものよ――。

そんな大地の品定めをすべく、また戦いにおける労をねぎらうためにも、わたしは深く割り箸を刺すと、こぼれんばかりの白米を持ち上げた。

――モグモグ。

 

(んーーー)

 

これは困った。ここまで盛り上げておきながら、大した感想が出てこない。そりゃ、まずくはない。念を押すが決してまずくはない。国産米100%使用のほっともっとは、あの「やよい軒」と同じ会社が経営しているため、米が美味い!がウリなのだ。

そこに期待しすぎたのか、はたまたグリル野菜やチキン、粗挽きウインナーの美味さに引っ張られたせいか、米がいたって普通に感じるのだ。

 

困ったわたしはキッチンを物色すると、かつて友人からもらった「お手製ふりかけ」が目に入った。これはすべて天然素材でできており、あの貴重なサルノコシカケまでもを、粉末状にすり潰して混ぜ込んであるのだそう。

店には悪いが、白米を最高のクオリティで食べてあげるためには、これしかない――。

 

わたしは早速、ふりかけを白米めがけてシャッシャと撒いた。戦いに疲れた白米の白さを、すべてかき消すようにふりかけをかけた。そして一面、薄暗い緑色に覆われたところで改めて箸を差し込む。

モグモグ――。

 

(う、うまい!!)

 

なんだろう。これは味というより、天然素材とスパイスのポテンシャルが勝った結果とでも言うべきか。米の風味と噛みごたえを引き立たせる、ふりかけの存在。これはまさに――

・・・いや、やめておこう。これじゃほっともっとグリルの米がまずいと、勘違いされかねない。

 

とにかく、ほっともっとグリルはわたしのお気に入り飲食店に名を連ねたことを、ここに報告する。

 

サムネイル by 希鳳

 

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