LA TEGOLA~至高のイタリアンを軽井沢で楽しめる話~

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「仲間内では『あの凄腕Pizzaiolo(ピッツァイオーロ)が、満を持しての独立だ』って、正直ホッとしてますよ」

そんな評価を聞いたのは2015年の春だった。長野県・軽井沢町にある有名イタリアン「ア フェネステッラ」の、オーナーシェフである安濟孝耶こそが凄腕の料理人。そして安濟は、コロナを機にさらなる「攻め」を見せた。

 

新たにオープンした店の名は「ラ テーゴラ」。熾火(おきび)でグリルした肉料理や、旬の素材をふんだんに使ったメニューが人気の高級イタリアン。さらに200種類を超えるワインを常備した、ちょっと大人の隠れ家的存在の店だ。

コロナ禍で飲食業界は大ダメージを負うなか、さらなる店舗展開に加えて大型ワインセラー室まで完備するとは、いったい軽井沢で何が起きているのか。

 

 

「軽井沢のお客さんて、わりと自宅で料理を楽しむ人が多いんですよ」

生ハムをスライスしながら安濟が話し始める。

「だから場合によっては、移動用のピザ窯を軽トラに積んでケータリングにも行きます。コロナになってからケータリングの需要が増えましたね」

軽井沢に別荘がある人たちは、そのほとんどが庭付きの広い居住空間を持っている。そのため、気の置けない仲間や身内を集めてホームパーティーの機会も多いのだそう。

さらに大部分が都内在住でありながらも軽井沢に別荘を持つ身であるため、短い時間のなかで豊かな自然を十分満喫するためにも、ケータリングという食事の方法は欠かせないのかもしれない。

 

「コロナを機にワインの勉強もしました。そして見てくださいよ、こんなものまで建てちゃいました」

安濟はそう言いながら、我が家のリビングほどもある大きなワインセラー室へと案内する。なんとこの立派な室内のつくり、安濟自らデザインし現場監督までこなした「建築作品」なのだそう。ーーアンタ、職業変えてもやっていけるよ。

200種類以上のワインが保管されているこの部屋、イタリアワインだけでなく、国産(主に長野県産)の珍しいワインも陳列されている。ワイン好きの友人に画像を送ったところ、速攻で注文が入ったほどのラインナップ。

これらのワインもすべて、安濟自らのチョイスだというからから驚きだ。

 

さらに料理についてこう語り始めた。

「僕は素材にとことんこだわります。とくに油や調味料は決して妥協しない」

イタリア料理の真骨頂であるスローフードは、地産地消や丁寧に作り上げること、そしてじっくりと食事を楽しむことを意味する。

可食部ギリギリの野菜の切れ端まで使い切ることで、自然の恵みを余すところなく堪能できる。そして味付けもシンプルに、オイルや塩、ハーブなどで素材を生かす味付けにする。

 

そんな安濟の料理を口にした人はまず間違いなく、

「こんなに美味しい料理、食べたことない!」

と漏らす。その理由の一つに、素材や調味料に妥協しない真摯なやり方があるのかもしれない。しかし肉や野菜、調味料などを業者から購入すれば、同じものを手にするレストランだって複数現れるはず。それなのになぜ、安濟の料理だけがこうも称賛されるのか。

 

「結局は人と人とのつながりだと思うんですね。だから僕は注文するときにメールやネットは使いません。どんなに面倒でも、電話や対面で雑談を交えながら進めます」

これを聞いた私は赤面した。仕事を少しでもスピーディーに簡素化するため、なるべくインターネットを使ったやりとりを好む私は、こういう人として当たり前の、土台部分の大切さを忘れていたように思う。

「イタリア産のポルチーニ茸だって、全部が全部おなじ品質や状態で入ってくるわけじゃない。その中でもより高品質なものを回してもらうためには、やっぱり人間関係が重要じゃないかと、僕は思います」

まさにその通り。野菜や肉だって品質はピンキリ。その中でも良い状態のものを手に入れるためには、持ちつ持たれつの人間関係が必要なのは誰にでもわかるはず。

困っているときに助けてもらったら、逆に相手が困っているときは助けようーー。そんな人間味あふれる関係性が築ければ、仕事だろうがプライベートだろうか良い方向へ進むのは当然といえる。

 

安濟が作る料理には、彼の人間性が散りばめられているからこそ、誰もが感動する美味さになるのかもしれない。

 

 

店内に戻り、念願の料理に舌鼓を打つ。目の前で糸のこぎりを使いギコギコカットされたTボーンステーキ(ビステッカ)を、まずはなんの味付けもせずにそのまま味わう。

炭と薪の香りに薄っすらと感じるブラックペパーと塩味。Tボーンによって左右に分けられたフィレとロースを交互に口へと運ぶ。そのジューシーさと肉質のずっしり感に言葉を失う。いや、語彙力を失う。

 

(あぁ、生きててよかった。この肉、めちゃくちゃウメェ・・・)

 

イタリア野菜の盛り合わせ、ニョッコフリットと生ハム、ボロネーゼ風のパスタ、鴨ロースト、そして最後に渾身のドルチェ(デザート)まで完走したところで、私は軽井沢を後にした。

 

軽井沢へお越しの際はぜひ、安濟の料理に触れてみてほしい。どれだけ忙しくとも、決して「無駄な時間を過ごした」とはならないことを、固く約束しよう。

 

 

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