突然だが、そもそも自然環境を「カネ儲け」に利用しようという考え自体がゲスである。
「自然の恵みでクリーンエネルギーを!」
などとほざいている輩は、多かれ少なかれ詐欺師と同類だ。
たとえば、虫眼鏡をつかって太陽光を集めて、紙を燃やす程度ならば「クリーンエネルギー」かもしれない。
だが、大規模な太陽光パネルを敷き詰め、景観をぶっ壊すだけでなく、山林伐採による山の保水機能を失わせることが、果たしてクリーンで再生可能エネルギーといえるのだろうか。
風力、水力、地熱、バイオマスなどいずれも大きな負担と費用の上で成り立っている。
これはクリーンエネルギーに限った話ではなく、どんな方法であれ何らかのリスクやデメリットはある。それらを比較したうえで、エネルギー源の選択をするならば許せるが、
「クリーンエネルギーこそが正義」
「再生可能エネルギーの普及が地球を左右する」
というような、極端で短絡的な方向性が気に入らないのだ。完全に正義となるエネルギーなど存在しない。この世に「絶対」がないのと同じで。
だからこそ、聞こえのいいキャッチーなフレーズに騙されないよう、最低限の知識と経験、そして自ら考える能力を、国民が身につけるしかないのだ。
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このように、自然エネルギーにナーバスなわたしは、スーパーでこんな文字を見つけてしまった。
「雪の自然エネルギーを活かして」
ふざけるな!!この期に及んで、雪まで使ってカネ儲けを企んでいるのか!!
「雪エネ熟成」
なにが雪エネだ!なにが熟成だ!聞こえのいい言葉ばかり並べやがって、胸糞わりぃ。
ふと袋をひっくり返すと、裏には「雪エネ熟成」についての説明書きがあった。
新潟県津南町は毎年沢山の雪が降ります。昔から秋収穫した野菜を、雪の中に貯蔵して食べる知恵を先人はもっていました。
雪の中は温度0℃湿度100%に近く、貯蔵に大変適しています。その環境でうま味、甘味などが増します。この地域に豊富にある資源・雪のエネルギーを活かして熟成させる事、それが『雪エネ熟成®』です。
なるほど。雪国で暮らす先人たちは、天然貯蔵庫として雪を利用してきたのか。そして雪の中で保存することで熟成が進み、より芳醇な味を生み出すということか。
・・・これぞまさに、完全なる自然エネルギーではないか!!!
わたしが手にしているのは、ニンジンである。太くて立派なこのニンジンは、雪の中で熟成されたフルーティーな味わいの「珍しいニンジン」なのだ。
雪室(ゆきむろ)の中で熟成させたこのニンジンは、臭みがなくなりうま味が増すのだそう。帰宅したわたしは袋を破り開けると、そのまますかさず先端に齧りついた。
(・・・むぅ!甘い!!!)
みずみずしいニンジンはシャキッとした歯ごたえが心地よい。そして宣伝文句のとおり、ニンジンの青臭さがまったくないではないか!
これはニンジンという野菜ではなく、果物としてのニンジンだ。正真正銘「天然の甘味」が、ニンジンの概念を覆してしまったのだから。
有限会社大地が販売する、雪エネ熟成®にんじん。会社のサイトを見ると、雪室貯蔵についての説明がある。
3月某日。冬の終わりを感じさせるシャリシャリの固く締まった雪を、重機や投雪機を使って倉庫内に吹き飛ばす光景が載っている。これこそが「雪入れ」という作業で、この雪が1年間残っているのだそう。
そして完成した雪室貯蔵室は、年間通して5℃以下に保たれ、湿度も95~98%を維持するらしい。この雪室へ、地元でとれた農作物を貯蔵することで成分変化が起き、それはそれは美味い野菜たちが誕生するのである。
(マヨネーズなんかいらないな・・・)
一本目はストレートで、二本目はマヨネーズを垂らしながら食べてみたが、これはマヨネーズなど不要である。ニンジンだけで十分なコクとうま味を感じるため、余計な調味料は付けないほうがいい。
わたしは目をつむり、大量の雪の中でじっくり熟成されたニンジンを思い描く。深みのあるオレンジ色は、フルーツのオレンジよりも鮮やかで美しい。
そして、生野菜の分際でここまで青臭さを感じないのは、ニンジンが熟成しているからだ。雪室内で効果的な低温糖化が起こり、糖度が上昇し甘みが増すわけだ。
肉も玄米も熟成させると、妙なうま味が生まれる。そのうま味こそが人間の舌を虜にする、魔法のエッセンスなのである。
あぁ、ニンジン以外の雪室野菜も食べてみたい・・・。
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自然エネルギーとは、こういうことを指すのだ。
先人の知恵こそが自然エネルギーの根幹であり、自然に対して無理のない共存こそが、正しい「自然エネルギー」の利用方法といえるだろう。
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