当たり前のことではあるが、準備というものは事前に余裕を持って行うべきである。世の中、そう簡単にいかないこともあるからだ。
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海外渡航にあたり必要なものといえば、まずはパスポート。あとは行き先がアメリカならば、ESTAの期限を確認すること。
そして、個人的に重要なアイテムとして「G-SHOCKの腕時計」が挙げられる。
わたしのG-SHOCKは、真っ赤で小ぶりなカワイイやつである。7~8年前に買ったものだが、見た目も機能もとても気に入っている。
ところがここ数年、国外へ赴く機会がめっきり減ってしまった。さらに円安も影響し、滞在期間はギリギリの短さでスケジューリングする羽目に。
こういった影響もあり、なるべく身軽な状態で旅立ちたいわたしは、G-SHOCKすらをも着けずに搭乗するようになったのだ。
そもそもG-SHOCKを着ける理由は、「日本時刻を常に把握しておきたいから」である。
世界中どこにいようが、仕事だけは決して穴をあけない。これこそが、いや、これだけがわたしのウリである。
土日祝日などもってのほか、ブラジルでもアルゼンチンでもコロンビアでもメキシコでも、どんな国にいようがどんな状態であろうが、仕事の連絡がくれば即座にパソコンを開いてきた。
とはいえ、仕事の連絡はほとんどがSNSかメールである。よって、そこまで時間を気にしなくてもいいのではないか?
――大方それでいいが、唯一、役所だけがそれではダメなのである。
役所の営業時間は、午前8時半から午後5時15分と決まっており、1秒でも過ぎれば「営業時間外」を知らせる録音が流れる手際の良さ。
(こんなにも素早く切り替えられるのならば、他の仕事もそうすればいいのに・・・)
そのため、電話を折り返すにも制限時間があるということになる。さらに、海外で電話を掛け直すとなれば、高額な通話料が発生する可能性もあり、断じて折り返しなどしたくない。
そのため、わたしは海外にいても、常に日本時刻を気にしているのだ。役所からの電話をとり逃さないように、超ナーバスに携帯電話をにらみつけているわけだ。
感覚的には、ヨーロッパでの日本時刻が一番堪えた。役所というのは朝一に電話をかけてくる。そして日本が朝9時を迎えるころ、ロンドンは深夜1時なのだ。
さらに、日本での昼過ぎの電話はロンドンでは明け方の4~5時である。こんなもので起こされていては、まともに一日を過ごすことができない。
それでもわたしは、この生活を、このやり方を選択したわけだ。時差があることなど承知の上で海外へ来ているのに、今さら「時差が厳しい」とはお粗末なものよ。
そんな自分に喝を入れるべく、寝ぼけて電話に出たとしてもすぐに日時の把握ができるように、G-SHOCKを右腕に巻いて海外を謳歌するのであった。
わたしの真っ赤なG-SHOCKはタフソーラー搭載のため、日光や照明を当てれば動く。充電がなくなったらすべてが終わるスマホとは、訳が違うのだ。
そしてつい先日、しまい込んでいたG-SHOCKをガサゴソと引っ張り出したところ、液晶画面が真っ暗になっていた。今までもこのように表示が消えていることはあったが、それでも照明の光を浴びてしばらくすると、数字が復活して動き出した。
しかし今回は、1時間たってもうんともすんとも言わないではないか――。
不安になったわたしは、時計の電池交換をしているであろう靴修理店へと向かった。
「この時計はタフソーラーなので、お預かりしてカシオさんへお送りすることになります。でもこれ、二次電池の充電ができるまでに2日くらいかかることもあるので、もう少し様子をみたらどうですか?」
若いお兄ちゃんが親切にアドバイスをくれた。たしかに、二次電池の寿命とは思えないし、もう少し日光浴をさせれば復活するのかもしれない。
こうして2日間、ありとあらゆる光を浴びせ続けたわけだが、わたしのかわいいG-SHOCKが眠りから覚めることはなかった。
出国まであまり余裕がない中で、わたしは果たしてG-SHOCKの電池交換ができるのだろうか。
G-SHOCKストアやカシオのサービスステーションで電池交換ができるらしいが、いずれも行きやすい場所ではない。さらにその場ですぐに終わるものではなく、最速でも60分かかるとのこと。これは、電池交換以外のチェックもするからだろうが、今のわたしにとってはその待ち時間すらも惜しいのだ。
しかもこんな時に限って、無駄に予定を詰め込んでしまったことが悔やまれる――。
あぁ、仮死状態のG-SHOCKが、ありえない偶然により蘇生する奇跡を、期待するしかない。
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