数か月に一度、定期的に購入する飲み物がある。それは、サントリー天然水スパークリングレモンだ。
炭酸飲料が苦手なわたしだが、ごくまれにスカッとしたい気分になることがあり、そんなときには、レモン味の炭酸水に手を伸ばすのだ。
炭酸飲料といえば、ジンジャーエールも捨てがたい。だが後味スッキリの無糖炭酸水といえば、これ一択だろう。
さらに今回は、現金を持っていないわたしを哀れに思った友人が、「なにか飲み物を買ってあげるよ」と申し出てくれたため、本当は160円のデカビタ的なやつが飲みたかったが、そこはマナーとして、安くて量の多い炭酸水を選んだわけだ。
思い返すと、この自販機で買う飲み物は毎回同じである。
その理由は、現金でしか購入できない自販機、これすなわち「わたしが自腹で買うことはない」ということ。つまり、必ず誰かの小銭で飲み物を買うわけで、そのたびに節度ある遠慮をした結果、必然的に「サントリー天然水スパークリングレモン」が選ばれるという流れなのだ。
無味の水では味気ない。かといって、味付きの飲み物はどれも高額である。さらに炭酸水ならば、ゴクゴク飲めない分時間をかけて消費することができる。つまり、得した気分になる――。
こうしてわたしは定期的に、この炭酸レモン水を買ってもらうのである。
ガタン
自販機の取り出し口に、重量感のある音とともに、サントリー天然水スパークリングレモンが落ちてきた。
友人に礼を言うと、さっそくペットボトルのフタをひねり開けた。
プシャァァァァ
マーライオンの口から水があふれ出るかのように、あるいは、生命誕生の奇跡を祝うかのように、驚くほど大量の水が一気にせり上がってきたのだ。
しかもこれは単なる炭酸水ではない、強炭酸水である。みるみる地面へとこぼれ落ちる強炭酸水は、ビシャビシャと余計な効果音を発するため、周囲の人間にも気づかれてしまった。
何がこぼれたのかを目視しなければ、なんというか、「放尿」と勘違いされるほどの圧倒的な流水音が響き渡る。
この光景に驚いた友人が慌てて雑巾を取りに走る。その間、わたしはただただ、呆然と溢れ出る強炭酸水を眺めていた。
(こんなことは、初めてだ・・・)
サントリー天然水スパークリングレモンが噴射したことなど、未だかつてない。自販機内を落下したとはいえ、今まで一度もこのような大惨事は起きなかったわけで。
それゆえに、いったい何が起きたのか俄かに理解できなかったのだ。
*
「ニューヨークの地下鉄は、マジでヤバい人いるからね」
友人が目を輝かせながら話し始めた。
「数年前、ブルックリンに住んでる友達に会いに行ったの。その時、地下鉄乗ったらウォォォー!とか叫んでるヒトいてさぁ・・・」
あぁ、それは災難だ。電車という逃げ場のない密室で、ヤバイ人と同じ空間に居合わせてしまった時の絶望感たるや、想像に難くない。
「カシスジュース飲んでたんだけど、慌ててキャップ閉めてバッグにしまったんだよね。そしたらさ、焦ってたせいかキャップが緩んでて、バッグの中がカシスまみれでベッタベタ!もぅ最悪だったよ」
これは最悪だ。とくにアメリカの飲み物など、強力な香料と甘味料を混ぜ合わせた液体である。そんな爆弾飲料をオシャレバッグにぶちまけたとなれば、楽しいニューヨークの旅も終わりだろう。
・・・とその時、ふと思い出したのだ。わたしが大量にこぼした「アレ」が「水」でよかったと。
他人の会社のフロアカーペットに米国製のカシスジュースをぶちまけたとなれば、カーペットの繊維の奥まで染み込んだカシス臭はそう簡単にはとれない。
ましてや、真っ赤なカシス色でカーペットにシミを作ってしまった日には、謝っても謝りきれないほどの罪悪感から「セルフ出禁」となるのではないか。
あぁ、さすがはサントリー天然水スパークリングレモン、ありがとう!!
*
やはり水というのは、あらゆる意味で「安全」である。
そして、やたらとカラフルで甘ったるい外国製のドリンクのフタは、とにかくしっかり閉めなければならない。
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