「ロカボナッツ燻製仕込み」の葬り方

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わたしは、自他共に認める料理下手である。友人から、

「こんなこと言ったら失礼だけど、予想をはるかに超える突き抜け方だよね」

と苦笑されるほどだ。

そりゃそうだ。火が怖いのでガスコンロが使えなかったり、食器洗いをするのが面倒だからダイレクトに手づかみで食べていたりと、現代人の食生活とは思えない原始的な感性の持ち主ゆえに、「調理」という行為とは無縁な人生を送ってきたのだから。

 

それでも、食材を混ぜ合わせて新たな食べ物を作り出すのは得意かもしれない。貧乏性のわたしは、たとえ不味い物でもなんとかして食べきる覚悟で挑んでいる。だが、さすがに不味いものをそのまま食べれば不味いわけで、これでは食べ物に対しても失礼にあたる。

そもそも美味いとか不味いという感覚は、当事者によって異なるもの。つまり、少し工夫することで、美味くも不味くも変わるわけだ。

 

 

そして本日の困ったちゃんは、「低糖質ロカボナッツ燻製仕込み」である。ダイエットに豆はつきもの!ということで、低糖質だのロカボだの黄金比率だの、オツムの軽い女が飛びつきそうなワードで固めた豆を購入したわたしは、一口食べてその味に愕然とした。

(・・・ま、不味い)

この手のナッツが美味いはずもない。とはいえ、最低でも「美味くも不味くもない」つまり「普通」であれば十分。そこまでハードルを下げてやっているにもかかわらず、このロカボナッツときたらお世辞にも「普通」のレベルすら保てていないのだ。

(まだ一口しか食べてないのに、この先どうしたらいいんだ・・・)

食べ物を無駄にできないわたしは、山ほど残っているクルミやアーモンド、ヘーゼルナッツに目を落とした。――ため息しか出ない。

 

ゲランドの塩で上品に味付けし、発行バターの風味をきかせ、ウイスキー樽として使われたホワイトオークチップで薫り高く燻製しました――。まったく、余計なことしかしてねぇな。

そもそもヘーゼルナッツというものが、わたしはあまり好きではない。あのなんともいえないまどろっこしい風味が、如何せん気に入らないのだ。どうせなら、甘いかしょっぱいかハッキリしてもらいたい。

 

そこでわたしは、ヨーグルトの中にこれらのナッツを投入してみた。海外のモーニングといえば、熱々のブラックコーヒーにたっぷりのフルーツとヨーグルト、そこへナッツやフレーク、場合によってはオートミールかトーストで、最高の朝を迎えることができるのだ。さぁ、あの時の感動をもう一度――。

(・・・ものすごく不味い)

ダメだ。ナッツがスモークされているため、独特の燻した煙の匂いが邪魔をする。むしろ、純白のヨーグルトがその煙を吸収し、せっかくのギリシャ風味が台無しにされたではないか。

 

ナッツとヨーグルトの相性は悪くはないはず。しかし燻製されていると、その独特な効力によりヨーグルトは価値を半減させられてしまうらしい。

まったく、余計なことをしてくれたもんだ。

 

 

こうして数週間が経過した。乾燥剤が入っているとはいえ、もうそろそろこいつも寿命を迎える頃だろう。いやなに、オマエに罪はない。まさかこんな味とも知らずに、大容量のロカボナッツ燻製仕込みを購入したわたしが悪い。

だからこそ、最期まできちんと責任を果たさなければならない。その覚悟はあるのだから――。

 

(とりあえず腹が減った。食えない豆よりも、食える何かにありつこう)

 

レンチンで食べられるカレーのストックがあることを思い出したわたしは、早速、その中からキーマカレーを取り出してレンジへと放り込んだ。

待つこと3分、レンジから非常に美味そうなカレーのにおいが漏れてきた。それにしても、カレーとは恐ろしい食べ物である。その強烈な匂いを放つことで、食べる前から口内がヨダレで洪水と化すのだから。

 

そしていざスプーンをカレーに突き刺した時に、わたしはふと気が付いた。

(米がない・・・)

わが家には炊飯器もなければレトルトご飯もない。せめて白米を買っておけばよかった…と後悔するも、こんな雨の中、今さらコンビニまで出掛ける勇気は起きない。

ではなにか、白米の代わりになるものは・・。あった、ロカボナッツだ!

 

キーマカレー自体にも何種類かの豆が使用されている模様。ならばロカボナッツが加わったところで、なんら違和感はないだろう。

こうしてわたしは、大量のロカボナッツを大皿にぶちまけると、その上にキーマカレーを流し込んだ。見た目はデコボコしているが、普通にカレーライスだ。

そして肝心のお味は・・・。

 

(・・・うん、不味くない!ロカボナッツ特有の、あの鼻につくスモーク臭がカレーによって消し去られている!)

 

カレーの味を凌駕する食材や調味料など、この世に存在しないのではなかろうか。そう思わざるを得ないほどの圧倒的な風味により、低糖質ロカボナッツ燻製仕込みの存在は、この世から消えたのである。

こうしてわたしは、ストックしてあったカレーをすべてレンチンすると、残りのロカボナッツにぶっかけては胃袋へと送り込んだのであった。

 

 

とどのつまりは、料理とは創意工夫と思いつきによる偶然の産物なのである。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

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