ハッキリ言わせてもらおう。わたしは頭のいい人間が嫌いだ。
アイツらは難しい言葉を使う。それと横文字や略語を使いたがる。
さらに、賢いことをひけらかす。まぁ事実だから仕方ないのだが、バカ側からするとムカムカする。
意味の分からない難しい単語を並べて、それをあたかも簡単なことのように書いたりしゃべったりする。
中でもムズムズが止まらない言葉がある。それは「ビジネスパーソン」だ。
一昔前ならば「ビジネスマン」と呼ばれていたであろう人々が、いまでは「ビジネスパーソン」に格上げされている。
まぁこれは「ビジネスマンじゃ男性を指すため、女性差別にあたる!」などという、言葉尻を捉えたつまらないトラブルが発端と思われるが。
しかしなんだよ、ビジネスパーソンって。
その呼び方だけで「仕事ができる人」って、勘違いしちゃいないか?
あー、ムズムズする。
*
たまたまSNSで見かけた「ビジネスパーソン」が登場する記事に目が留まった。
ーーうむ、サッパリわからない。
金融や経済、政治や世界情勢にめっぽう疎いわたしは、この手の内容の記事はまったく頭に入ってこない。
さらには「ビジネスパーソン」などというキーワードが出てきたら、もはやニヤニヤが止まらない。
ーーダメだ、これは笑わせるためのワードではない、真面目なワードなんだ。
そう言い聞かせながら読むので、なおさら意味不明で理解できない。
とそこへ、何とも魅力的なオモシロワードが飛び込んできた。
「農業パーソン」
このキーワードにわたしは食いついた。
当然ながら読み間違えだ。農家の話で「営業パーソン」という単語が登場したため、勝手に組み合わせてしまったのだ。
しかしわたしはこの言葉が気に入った。
「ビジネスパーソン」というと、スーツ姿でツンとすました偉そうな奴のイメージ。
しかし「農業パーソン」はどうだ。麦わら帽子に首から手ぬぐい、フフンと得意げな表情の、どこかカワイらしい人物像が浮かぶ。
まして、台風の中で収穫作業を命じられるような農業パーソンからすれば、たまったものではないだろう。
ププーッ!!
たしかに、台風の中で収穫作業なんぞを命じられたら、農業パーソンもキレるわ。
こうして、記事の内容は難しくて理解できなかったが、「農業パーソン」というオモシロワードを入手したわたしは、満足を得ることができた。
(正確には、「営業パーソン」の誤読)
*
「台風の中で収穫作業」の件(くだり)で思い出したことがある。
数年前のこと。台風直撃の那珂川は大雨で増水し、川の上を歩けるんじゃないかと勘違いするほどの、重たいチョコレート色の濁流がザブザブと渦巻いていた。
そんな危険な状況だが、わたしは鮎をとりに梁(やな)へと向かった。
梁とは、木や竹で編んだ「すのこ」のような滑り台を川の中に設置し、上流から流れてきた鮎が打ち上げられる仕掛けのこと。
ちょうど産卵期にある鮎は、水かさの増えた川を下って海へと向かうはず。その途中にある梁で、鮎を捕まえるのだ。
叩きつける豪雨に逆らいながら、わたしは濁流をかき分け突き進む。
梁には大量の鮎がビチビチと跳ねている。
ーーこれこそが、台風の中で収穫作業を命じられる「漁業パーソン」というやつだろう。
*
誤解のないように言っておくが、記事の著者をディスる気など毛頭ない。
ただ、面白い造語(農業パーソン)を発見した喜びを表すために、過去の思い出を引っ張り出したまでだ。
人間、なにごとも「面白い」と思うところに成長があり可能性がある。
このブログの読者ほぼ全員が「ビジネスパーソン」であろう諸兄諸姉。
自分にしか分からない、くだらない面白さで構わない。人生のちょっとしたスパイスとして、クスっと笑えるオモシロワードを探してみてくれたまえ。
Illustrated by 希鳳
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