看護師として美容クリニックに勤める女子との会話。初っ端から笑ったのは、
「おでこに脂肪注入したんですよ。そしたらおでこにケータイの跡が付いちゃって、クリニックで半狂乱になる事件起こしたんですよ、私」
という、ぶっ飛んだぶっちゃけ話だった。
彼女は「バックエイジング」と呼ばれる、自らの脂肪を活用する若返り治療を行った。
若いのになぜ?という野暮な質問は却下する。
腹や太ももの付け根から皮下脂肪を採取し、老化細胞や血液等の不純物を遠心ろ過で除去。そこから幹細胞の濃度を高めた脂肪や、粒子の細かい細胞群を抽出して、顔や首など希望部位に注入するエイジング治療があるのだ。
ちなみに彼女は20代半ばだが、さらなる若さを求め、丸く美しいおでこを作るべく脂肪注入を決意したらしい。
(クリニックで働く看護師は社員価格で治療が可能なため、全員が「我先に!」と、勤務時間外で手術が可能なスケジュールを抑えるらしい)
手術後の夜、期待を胸にスヤスヤと眠りについた彼女。
翌朝目が覚めると、おでこの状態をチェックしに鏡の前へと立った。
「キャァァァァァァ!!!」
思わず悲鳴を上げる。なんと、丸くふっくらした理想のおでこに、くっきりと「携帯電話の跡」が付いていたのだ。
原因はアラームとして枕元に置いておいたスマホだ。寝返りを打った際にスマホの上におでこを乗せてしまったらしく、そのまま朝までぐっすり眠ったようだ。
「出勤と同時に泣き叫んで、みなさんに大変な迷惑をかけました」
確かに社員価格とは言え、決して安くはない金額。それを20代半ばの女子が頑張って捻出したわけで、まん丸いおでこに長方形の「スマホの魚拓」が刻まれたのでは泣くに泣けない。
だが先輩たちは優しい。
「大丈夫だよ、それは浮腫んでるだけだから。腫れがおさまれば跡も消えるよ」
そう言いながら慰めてくれたのだそう。
多分彼女らも多かれ少なかれ、何らかのミスをやらかしてきたからこそ、「大丈夫」と言い切れるのだろう。
さらに彼女は、
「恥ずかしいんですが、先生にもう一度オペしてくれって泣きながら頼んじゃって」
と顔を赤らめる。
せがまれた医師も内心大爆笑だっただろう。
ーーいやそれ、単なる浮腫みについた跡だから。すぐ消えるし。
こんなことでリオペを要求されたのでは敵わない。
結局、翌日にはスマホの跡は消えた。その後は絶対に、横や下を向かないように眠るようにしたのだそう。
若さと美しさを手に入れるには、生半可な努力ではダメなのだ。
さらに彼女はバストへも脂肪注入をしたらしい。
シリコンバッグやヒアルロン酸ではなく、あえて高価な脂肪注入を選んだ理由は何だろう。
「シリコンバッグは劣化するから定期的に交換が必要。ヒアルロン酸は触れば明らかに分かります、硬いから」
なるほど、たしかにそういう話はよく聞く。
顔にヒアルロン酸を打ちすぎて、パンパンに腫れている芸能人を見かけるが、あれこそが「ヒアルロン顔」というやつだ。
体に無害とはいえ、しこりとして体内に留まってしまったり、チンダル現象といって注入部位が青っぽく透けてしまったりすることもある。
そういう意味では、若い彼女が自らの脂肪を採取し、バストへ注入したいと考えるのにも頷ける。
しかし脂肪も自分の体の一部。歳とともに劣化していくのは免れない。
つまり若いころの脂肪を採取し、特殊技術で保存しておくことで、40代50代になってから、20代の若い脂肪を注入することが可能。
「保存したいんですけど、お金が・・・」
そりゃそうだ。年間十数万円で保管し続けて、彼女が仮に45歳になったとしよう。今から20年後だ。
毎年脂肪に払い続けた金額で、車や高級時計が買えるだろう。田舎なら庭付きの一軒家が購入できるだろう。
「でもあたし、年とって老けたくないんです」
ピチピチの白い肌に、クリっと大きな黒い瞳。丸いおでこにシワ一つない目元。まさに若さの象徴といえる顔を持っている。
ーーこの子が20年後、どんなオバサンになるのだろう。
いや、オバサンにはならないのかもしれない。科学の力、医療の進歩を駆使して、このみずみずしさを保っているのかもしれない。
「だから頑張って働いて、お金ためるんです!」
そう宣言しながらキラキラと笑う。
うん、これはこれでいいと思う。
彼女は自らの余分な脂肪を必要な部位へ移動させ、本来あるべき膨らみを再現したにすぎない。
その目標の持続が「頑張って働く」というモチベーションにつながっているのなら、なにも悪いことではない。
最後に彼女は、
「お金は貯めるより、使うほうがいいと思ってます」
とも話してくれた。わたしも同感だ。
将来の漠然とした不安のためになんとなく貯金し続けるくらいなら、明らかにフィードバックされる形で自分自身にお金を使いたい。
そう考える若者は、なんというか賢い。
美容に限らず勉強でもスポーツでも、鑑賞やワークショップのような「体験」でも、自分自身を肥やすために投資すればいいのだ。
次回、彼女がどんな「魚拓」を披露してくれるのか、楽しみにしておこう。
コメントを残す