シニアパーソン(老人)のデジタルトランスフォーメーション

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「お年寄り」というとどこかかわいそうなイメージがある。

「老人」は見るからにひどい。

「高齢者」もどことなく冷淡で形式的な感じがする。

 

では「シニアパーソン」とでも呼ぼうか。

 

本日、うちのシニアパーソン(母親)と久しぶりに会った。

今どきのシニアは元気で若々しい。

 

うちのシニアは最近、携帯電話を「らくらくホン」から「アイフォン」に替えた。

 

「ねぇ、アイフォンSEにしようと思うんだけど」

「ドコモからソフトバンクに乗り換えようかしら」

「LINEてちゃんと移せるの?」

 

娘の立場からするとかなり鬱陶しい質問というか相談が続く。

 

もうどれでも変わりないから好きなのにしたら?と冷たくあしらうも、あまり響かない。

結局キャリアをドコモからソフトバンクにし、アイフォンSEを安価で手に入れたようだ。

 

今回上京した目的は2つ。

一つはスマホの使い方のレクチャーを受けるため

もう一つは顔にできた肝斑(かんぱん)を取るため

 

私が帰省しようとすると、

 

「コロナ運んでくるからダメ!」

 

と言う割には、自分の都合では東京に来るものなのだ。

 

除菌シートやら除菌ジェルやらナイロン手袋やら除菌グッズを山ほど担いで現れたが、テラスのテーブルを拭くことなく食べ物を広げている。

 

「いまテーブル触った手でブドウつまんだけど、除菌しなかったね」

 

嫌味を言うと、

 

「あらそう?」

 

と、まったく動じない。

こういう鋼のメンタルは見習うべきところ。

 

早速アイフォンを取り出し、まずはWi-Fiの接続方法について聞かれる。

いま飛んでいる電波を使う方法はその場でやって見せられるが、自宅のWi-Fiの接続方法が分からないらしい。

 

「自宅のWi-Fiはルーターに貼ってあるシール見ればいい」

「ルーターってなに?」

「んー。なんか黒い四角いやつ」

「黒い四角いやつは、どこにあるの?」

 

これだから最低限のデジタルリテラシーは必要だ。

とりあえず、電波が出ていそうな黒い四角を探せと指示した。

 

次に、LINEのQRコードを読み込む方法がわからないとのこと。

 

「カメラ起動してかざせばいい」

「え?これまでは専用のカメラがあったよ」

「いまはもうないんだよ」

 

これで終了。

 

ところで、まさかの使いこなしに驚いたのは「フリック入力」ができることだった。

 

私自身フリック入力に慣れるまで、意外と時間がかかった記憶がある。

しかしウチのシニアは、ものの1週間でサクサクとフリック入力で文字を打ちこんでいる。

 

文字はフリック入力で完璧、LINEはスタンプを使いこなし、わからないことはグーグルを使って調べ、ときにはECサイトを通じて買い物までする。

 

知らない歌を覚えたいときはYouTubeで探し、私ですら使ったことのないヘルス機能で歩数を測定し記録している。

 

これからの時代、スマホが必要なのはシニアパーソンであることは間違いない。

 

うちのシニアはシニア世代のなかでも最先端を行く現代っ子であることに、娘としては感動した。

 

 

そうこうするうちに時間が来たので、肝斑を取りに皮膚科へ向かう。

御年●●歳で美容の意識が芽生えるとは驚きだ。

 

これもコロナの影響かもしれない。

家に閉じこもり、お金を使う機会も減り、このまま死ぬくらいなら肝斑のひとつでも消しておこうじゃないか。

そう思ったのかもしれない。

 

さらにコロナでマスクが必須となり、顔の大部分を公的に隠せるようになったことも起因しているだろう。

「接客業でマスクは失礼だから」という企業は消え、今やだれもがマスク着用を義務付けられている。

その結果、鼻や口、頬などの美容整形はかなり手を出しやすくなった。

 

ウチのシニアも

 

「マスクできるから今がチャンスだと思うの」

 

などといっちょまえなことを言う。

まぁ年齢を重ねても美意識の高い女性でいるのは喜ばしいことなので、そっとしておこう。

 

いくつかの大きめな肝斑にレーザー照射をして施術は終了。

ヒリヒリするだの痛いだの騒ぐシニアに、

 

「やけどして痛くない人間がいますか?

すり傷がしみない人間がいますか?

いまの状況を考えれば、痛いのが当たり前なことくらい小学生でもわかるよね」

 

と諭し黙らせた。

 

だいたいキレイになろうとするのに、お金もかからず痛みも伴わないなんてことがないことくらい、常識として覚悟しておいてもらいたい。

 

たとえば顔にメスを入れ、たとえば皮膚にレーザー照射し、痛くないわけがない。

そのようなことは客観的に考えれば容易に想像がつく。

 

それを痛いだのかゆいだの。

 

 

スマホの話に戻るが、うちのシニアが

 

「次はどうすればいいの?」

 

と質問してきたことがある。

私は、

 

「そこになんて書いてある?」

 

と質問返しをした。

 

「次へ、って書いてある」

 

とシニアは答える。

 

「だったら、『次へ』を押せばいいんじゃないの?」

 

これも同じだ。

自分で考えようとしない悪いクセ。

 

他人の指示に従って生きることが当たり前になると、自ら考えようとしなくなる。

 

その結果、少し考えればわかることすら、わからなくなる。

 

 

説教じみた内容になってしまったが、これからの時代はシニアこそスマホやインターネットを駆使する世代となる。

 

より豊かなシニアライフを満喫するためにも、らくらくホンなどではなく、機能満載のスマートフォンを推奨する。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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