「事情はどうあれ、眼福を得ることのほうがそれを失うよりも幸せ」と、言い切る友人に憧れる私

Pocket

 

友人は笑顔でこう言った。「二番目でも三番目でもいいの。好みの顔を間近で見られるなら、私だけのものにしたい・・なんて思わないんだ」——と。

 

一般的には、恋人あるいはパートナーというのは互いに一人ずつであり、「できれば自分だけを見ていてほしい」という願いがいつしか独占欲となり、奇しくも「自分の物」という感覚に陥りがち。ちなみにわたしはこの考えに大反対である。この世に絶対がないように、一瞬の恋心が永遠に続くことなどあり得ないわけで、一人ぼっちが怖いあるいは寂しいからこそ、相手を束縛することで身と心の安全を確保しているだけだからだ。

なによりも、パートナーの自由を奪うことで相手の魅力を半減させていることに気づいたほうがいい。自分だけを見てほしいから・・とあれこれ制約をつけたところで、それは取調室で脅迫されるかのような効果しかもたらさない。おまけに、様々な経験を積むことでヒトとして成長したり魅力が倍増したりするのに、それを妨げるのだからどんどんつまらない人間に成り下がるのは当然のこと。

そんな落ちぶれたパートナーをがんじがらめにしておくことが、互いにとっての幸せなのだろうか——などと辛辣な意見を述べながらも、現実的には互いを束縛し合うことで”恋人”という不安定な関係性が成立するのだから、これもまた人間界の不思議の一つといえる。

 

冒頭の友人は、恋人に求める一番の条件が「顔」とのこと。そのため、どんなにクズでダメ男でも、顔さえドンピシャならばすべて許せるのだそう。しかし、そんなに好みの顔ならば、他人に奪われたくないと思うのでは——。

「友達と遊んだり趣味の時間を満喫したり、私がやりたいことも色々あるでしょ?だから、頻繁に会うよりも『来週会おう』って決めておくほうが、その日を楽しみにしながら毎日を過ごすことができるの」

この考えを聞いたわたしは、「なんか素晴らしいな」と感心しつつもちょっと羨ましく思った。たしかに、未来の楽しみがあるからこそ辛いことも乗り切れる・・という一面はある。だって、先を見ても何ら楽しみがなければ「もうここで挫折してしまおうか・・」と、歩みを止める可能性もあるわけで。

 

それでも、そう簡単に気持ちや感情を切り替えられないのがニンゲンというもの。それなのに友人は、好みの顔を拝むために来週までおあずけをくらったとしても、全く問題ないどころか「そのほうがいい」と言い切るのだから潔い。

ましてや、自分以外にも”相手”がいると知っていても、「私と会ってくれるのならば、それでもいい」と言えるあたり・・そんな割り切り方ができるというのは、ある意味”幸せ作りの天才”なのかもしれない。

彼女だって、できれば自分一人と付き合ってほしいと願っているはず。それでも、それが無理あるいは叶わぬ状況であれば、相手を断ち切ることよりも関係性を割り切ることで、自身の幸せを維持する選択をしたのだ。それはそれで辛いだろうに——。

 

無論、中途半端な気持ちではとてもじゃないが達成できない。口では何とでも言えるが、実際にその状況に身を置いてみれば、やはり胸が痛む瞬間というのは訪れるもの。それでも彼女は、「眼福を得ることのほうが、それを失うよりもよっぽど幸せ」と考えているのだ。

(・・わたしには、無理だな)

誰かを自分の物にしたいと思ったことはないし、わたしがそう思うことはないだろうが、「今以上」を願ってしまったら、その先に待っている未来は地獄でしかない。絶対的な感情など存在しないからこそ、「今」の衝動に突き動かされ強欲に未来を求めることで、最終的に傷つくのは自分自身であることを知っているからだ。

だったら、自発的にでも失うほうがマシだ——。

 

さらに友人はこう言った。

「性格が単純だからなのかな・・寝て起きたらスッキリしてるし、ネガティブなまま過ごす時間は長くないかも。あと、別の”眼福”を見つけるのも得意だから、いろんな眼福で毎日を楽しく過ごせているのかもしれない」

——まさに彼女は、人生を鮮やかに彩る天才なのだろう。そしてこの考えは、宗教や推し活にも通ずる部分がある。たとえば、神のような絶対的な存在がいれば死ぬまで縋(すが)ることができるし、推しメンが複数人いたり二次元のキャラクターだったりすれば、これもまた、いつでもいつまでも幸せな気分でいられるわけで。

 

 

好みの顔・・というある種の普遍的かつ表面的な魅力だからこそ、彼女は深入りすることなく眼福を維持できるのかもしれない。ところがそこへ、性格だの体型だの環境や年齢で変化をもたらす要素が加わったとしたら、もしかすると友人が思う”幸せ”は歪むのかもしれない。

それでも、天真爛漫で朗らかな彼女を見ていると、本当に羨ましくなるのだ。小さな幸せを正面から受け取り、文句も言わずに満足できるその心意気に——。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket