戦場フォトジャーナリスト

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今の世の中は便利なものだ。自宅でソファに寝ころびながら、行ったこともなければ地図で指すこともできないアフガニスタンという国の、リアルな素顔を見聞きできるのだから。

 

ジャーナリストという人間に不信感しか抱かない私が、唯一尊敬する人物がいる。中東をメインに活躍するフォトジャーナリスト、久保田弘信さんだ。

久保田さんとの出会いは4年前、彼がアフガニスタンへ向かう2日前だった。そもそもなぜこのような出会いがあったのかというと、私と久保田さんには共有の友人がおり、彼に対して久保田さんが

「戦地へ向かう前に女の子と飲みたい」

と要望したとかしないとかで、友人は片っ端から女性陣に声をかけた。だが当日の18時に「今夜ヒマ?」と聞かれて、予定が空いている女性は少ないだろう。

ところがここに、見事に予定の空いている女性がいたのだ。

 

「いま石神井公園で髪切ってるから、遅刻するけど行けるよ」

「この雨の中、公園で髪切るって出家するってこと?」

 

この会話もどうかと思う。石神井公園は都民ならばご存知のはず、練馬区の主要駅の名前だ。都内には「公園」と名のつく地名や駅名は多く、芝公園・芦花公園・戸越公園・お台場海浜公園・葛西臨海公園などが有名。

しかしアホな友人は、どうやら私が本当に公園で髪の毛を切っていると勘違いしたらしい。しかも土砂降りの雨の中。

 

「とりあえず久保田さんには尼さんが来ると伝えるわ」

「いや、尼さんじゃないし」

「じゃあ、女の子じゃないけど性別は女性が来ると言っとくわ」

 

このような流れで私は久保田さんと会う運びとなった。そういえばこの友人、かねてから私にアフガニスタン行きを進めていた。

「戦場フォトジャーナリストの知り合いがいるんだけど、オレが頼み込んでやるから、その人の弟子になってアフガニスタン行って来いよ」

と、しつこく勧誘されたことを思い出す。

 

私はカメラ撮影などしたこともなければ興味もない。さらに海外で取材など、特派員か通信社の仕事だろう。取材はできるが私である必要性はない。それよりなによりアフガニスタンって、行くことも難しいがそれと同じくらい生きて帰ってくるのも難しい地域なんじゃーー。

そう、この「師匠」こそが久保田さんだったのだ。

 

 

実際に話を聞いてみると、久保田さんは何度か死んでいる。いや、死んでもおかしくない状況が何度もあった。岩一つ、壁一枚で銃撃を免れる経験など、日本にいたら一生味わうことのない恐怖だ。

そんな死亡フラグが立つような危機的状況を何度も乗り越えて、久保田さんは今も元気に生きている。

 

これに比べると私の経験など可愛いものだ。リオデジャネイロで一人、携帯の充電がなくなり誰とも連絡できなくなった時、たまたま乗っていたバスに居合わせたブラジル人の自宅へ押しかけて、iPhoneの充電と紅茶をごちそうになったことがある。

その人は空軍のパイロットだったため、彼の自宅敷地内=軍の施設へ入る際の身体検査やIDチェックが想像以上だったくらいで。

 

そんな久保田さんと画面越しとは言え、4年ぶりに再会を果たした。彼がアフガニスタンで撮りためてきた数千枚の写真から、選りすぐりの数十枚を紹介するとともに当時の様子を伝えてくれた。

たしかに、彼ら彼女らが生きる地は戦場だ。だがそこには日々の生活に追われる普通の人々が写っている。赤ちゃんからお年寄りまで、普通の人間がそこで生きている。

当時、緊張と警戒心からか、にらみつけるように地面に立ち尽くす少女の写真が映し出された。その2年後、少し大人びた魅力的な笑顔の女性の写真が映った。なんと、2年前のあの子だったーー。

 

これこそがジャーナリストに求められる役割なのではないかと感じる。一瞬を切り取って伝えることも重要だが、継続的に足を運んでこそ築ける信頼関係や、時間の経過で変化する現地の様子を伝えることが。

 

久保田さんの写真、といってもほんの一部しか拝見していないが、戦争の悲惨さや政治に対する非難というより、そこで生きる人々の生命力が溢れ出ている。

中には、撮影から20日後に亡くなった赤ん坊の写真も。だが彼が撮影したからこそ、あの赤ちゃんは紛れもなくこの世に存在していたし、20年経過した今でもその事実が証明されるのだ。

 

一度でも関わった人々の成長や生死を確認するには、再び現地へ赴かなければならない。たとえ二度と会うことが叶わなかったとしても、そこから学ぶリアルがあるはずだから。

 

 

ユニセフによると、2017年現在のアフガニスタンの5歳未満児の死亡者数は毎年8万人。そして「下痢」が原因で死亡する人数は9,500人(約12%)とのこと。つまり、毎日26人の子どもが下痢で死んでいくのだ。

下痢の主な原因は、屋外排泄を含む衛生環境の悪いトイレに加え、飲み水が不衛生であるため。

 

蛇口をひねれば衛生的でおいしい水がジャンジャン出てくる日本において、飲み水のせいで命を落とす人生があるということを、我が事として捉えられる人がいるだろうか。

 

だからどうする、ではない。まずは知ること。

 

そしてできれば出所不明の情報より、発信者の顔が見えるリアルな情報に触れることが重要。その結果、異国の地で起きている他人事ではなく、同じ地球上で生きる我が事として考えられるようになるからだ。

 

 

本記事作成のために、久保田さんご本人より画像提供をいただきました。今後も健康(安全)に留意し、リアルな中東を私たち日本人へ伝えてください!

(嫁募集中)

 

 

オンラインセミナーのお知らせです。今回開催された「アフガニスタンのリアル」が好評だったため、9月18日19日に追加開催が決定しました!久保田さんの生の声が聞ける機会ですので、ぜひ一度参加してみてください。

視聴方法はZoomによる参加となります。セミナー後には久保田さんへ直接質問もできます。

 

 

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