コミュニケーションにおける潤滑油、一言の謝罪

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こういうタイプも「コミュ障」というのだろうか。それはさすがに言いすぎかもしれないが、コミュ障ならば仕方ない・・と割り切れるので、わたしの中ではそういうことにしておこう。

 

 

社労士であるわたしは、とある従業員の雇用保険の取得について、二か月以上前に電子申請をした案件があった。その会社にとって"初の従業員"ということもあり、雇用保険の事業所設置届と同時に、被保険者の資格取得も申請したわけだが、"事業所設置"は数日後に審査が終了したにもかかわらず、被保険者の資格取得のほうは、二か月経っても「審査中」のままだった。

まぁ、二週間くらい待たされることはしょっちゅうなので、さほど気にせず待機していたが、一か月経っても変化がないことにしびれを切らせたわたしは、雇用保険電子申請事務センターへ架電した。

その時に対応してくれた担当者からは「前職が未喪失なので保留となっています」と説明されたので、「では、先方(前の職場)を突ついてもらえますか?」というような会話をした記憶がある。

 

ちなみに、「前職を退職して一か月が経過するのに、再就職先で雇用保険の取得ができない!」という場合に考えられるパターンは、主に3つ・・いや、4つある。

まず一つは、「ただ単に、前の会社が雇用保険の喪失手続きを忘れている」だ。総務部があったり顧問社労士がいたりすれば、この選択肢はほぼあり得ないが、個人経営だったり事務職員がいなかったりすると、ついつい雇用保険の喪失を忘れることがある。

ちなみに、対する"社会保険の喪失"はさっさと手続きするのに、なぜ雇用保険は忘れるのだろうか——その理由は簡単。社会保険は、喪失しない限り永遠に保険料を徴収されるからだ。・・なんとも現金な理由である。

 

もう一つは、「有休消化により、雇用保険の喪失年月日と再取得の年月日が重複する」というケースだ。労働者にとっては月末退職のつもりが、未消化の有休を10日保有していたため、会社としては「月末+10日後が退職日」という処理をした場合がこれにあたる。

たとえば、退職日(月末)の翌日である翌月初日に再就職し、実際に初日から出勤していたりすると、再就職先では社会保険も雇用保険も月初が取得日となる。ところが、厳密には"前職における有休消化中に、再就職先で働き始めた"ということで、保険の得喪が重複してしまうのだ

こうなるとハローワークが間に入り、前職と再就職先との得喪年月日の調整を図ることになる。多くの場合、退職日はそのままで再取得を「退職日の翌日」として処理するわけだが、雇用保険は一日の空白もなく継続するため、大きなトラブルにはならない。

 

三つ目は、「実際には前職と再就職先とのダブルワークで、リモートワークだから問題ないと思った」という、開けてビックリの展開だ。たしかに、フルフレックスや裁量労働の場合、労働者本人の裁量にゆだねる部分が大きいので、仕事が早い人にとってはダブルワークでもトリプルワークでもこなせてしまうのだ。

労働者にとっては「収入」がすべてなので、表面上クリアできれば問題ない・・と思いがちだが、裏では保険関係の調整が必要となるわけで、この辺りも踏まえてマルチワーク(多業・複業)について検討してもらいたい。

 

そして四つ目は、「ハローワークが処理を忘れていた」である。誰にでもミスや失念はあるので、これ見よがしに責めるつもりはないが、多忙のあまり(?)担当職員が取得処理を忘れている・・ということもなくはない。

 

なお、今回はこの"四つ目の理由"により再就職先での取得が保留となっていたのだ。

おまけに、電子申請してから二か月が経過したのに、未だに「審査中」の表示が変わらないことに痺れを切らせたわたしは、雇用保険電子申請事務センターへ再度架電したのである。

 

「審査状況について確認していただきたい申請があるのですが・・」

丁寧に依頼をするわたし。すると電話口の女性は、

「前職が未喪失の場合、ここ(事務センター)ではなく管轄のハローワークになるので、そちらへお掛け直しください」

と、早々に電話を切りたい雰囲気を醸し出した。その"切り捨てるような口調"に思うところのあったわたしは、「一応、確認していただいてもよろしいですか?」とゴリ押ししてみた。すると女性は「はぁ」とめんどくさそうに電話を保留にしたのである。

 

この時点でなんとなく嫌な気分になったわけだが、"管轄のハローワーク"というのは、窓口対応もしているため電話が繋がらないことも多い。そのため、なんとか事務センターで状況確認ができれば・・と思っていたわたしは、大人しく保留音が終わるのを待つことにした。

そして再登場した女性は、

「どういった経緯かは分かりかねますが、前職の喪失は入っていますが取得が保留になっています。ここではなく管轄のハローワークが担当なので、詳細は分かりませんが」

と説明してくれた。彼女は何一つ間違ったことは言っていないし、「管轄のハローワークが処理を忘れていた」ということを、遠回しに伝えてくれただけである。

 

だが・・そうだとしても、一言くらい謝罪の言葉を口にしたらどうなんだ?

 

たしかに彼女は電子申請事務センターの人間で、本件について直接かかわっていないため、謝る筋合いなどないのかもしれない。そして、運悪くクレーマー(URABE)の電話に出てしまい、事実を淡々と述べただけでなにも悪いことはしていないわけで。

それでも・・だ。部署は違えど、同僚の職務怠慢により処理を失念していたのだから、一言侘びるくらいできないのだろうか。それだけで彼女の株が上がり、わたしも事業主へ「対応してくれた事務センターの人も、謝っていましたので・・」と説明することができる。

しかし実際には、悪びれる様子もなく淡々と状況説明をし、「自分は関わっていないし、なにも悪くない」というオーラがビンビンに伝わってくるわけで、二か月も放置された事実については何もないのだ。

 

「なんでも謝れば済むもんじゃない」という意見もあるだろうが、これに関しては"コミュニケーションにおける潤滑油"となるのではなかろうか。

仕事のやり取りとはいえ、互いに血の通った人間同士であり、なにより"感情"があるわけで。二度と会うことも会話することもないかもしれないが、であればなおさら、相手を不快にさせる理由などどこにもないはず。

「私は悪くないけど、誰かが処理を二か月放置したことに対して、そこまでして謝ってほしいわけ?」

・・こんなセリフが、彼女の脳裏をよぎったのではないかと邪推してしまう。「言った」「言わない」の話ではないが、やはり顔が見えない分、話し方や声のトーン、そして会話をスムーズに進めるためのワードチョイスは、マナーとして心得ておくべきたと改めて感じるわたし。

同じ言葉でも、言い方によっては相手を怒らせたり傷つけたりするわけで、少なくともわたしは嫌な気分になった今回のやり取りについて、"人の振り見て我が振り直せ"をしかと心に刻もうと誓ったのである。

 

——余談だが、これらの処理は事務センターでも対応できるので、結果的にはその場で処理を進めてもらった。それがまかり通るからこそ、めんどくさいオーラを放つな・・と内心つぶやいてしまったのである。

 

Illustrated by 希鳳

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