たった一時間、されど一時間

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――あぁなるほど、その発想は面白いな。

とある友人の一言に唸らされた。それは、私がSNSに投稿した「仕事の合間に、一時間だけピアノの練習をした」という発言に対し、

「一時間も練習したのに、一時間『だけ』なの?」

というコメントをくれたことがきっかけ。たしかにどの競技(種目)を練習するのかによって、その「一時間」は長かったり短かったり変化する。とくにハードなスポーツならば、一時間もぶっ続けで練習したら疲れ果てるだろう。だが殊にピアノはそうでもない。

 

よくよく考えてみると、ピアノの練習が短時間で終わるのならばそんな嬉しいことはない。こちらだって長々と弾きたくて鍵盤と向かい合っているわけではないからだ。だがそんな上手く事が進むはずもなく、たった8小節を何度も何度も弾き直し、ようやく弾けるようになったと思ったら再びミスをする。片手ずつ弾いたりゆっくり弾いたり、色々な方向からアプローチするうちに、たった8小節をミスなく弾けるようになるのに20分を費やした。

(やばい。2曲練習しようと思ったのに、たった8小節しか進んでない・・・)

この8小節にこだわっていると一曲すら終わらない。やむを得ず、完璧に弾けないまま次の8小節へと進む。しかし案の定、この8小節でもつっかえるわけだ。そしてまたここを掘り下げて練習した結果、たった16小節、時間にしてわずか30秒を弾くだけのために、練習時間に45分を費やしていた。

(まずい!あと15分で退室だ)

こうなったらもはやちゃんとした練習などできない。ただ単に、最初から最後まで間違えようが何しようが通して弾ききる、という無駄な指の運動にしかならないからだ。

 

曲の難易度や弾き手のレベルにもよるが、満足のいく練習をするならば、最低でも一曲につき一時間はほしい。今回のように2曲弾くつもりでスタジオを借りるのならば、やはり3時間は確保しておきたいもの。

・・・というのが「ピアノの練習」というやつの実情だ。よって、正直な感想を文字にするならば、

「たった一時間しか練習しませんでした」

が適切。ピアノが上手な人ならば、きっと30分程度で十分な練習ができるだろうが、下手であればるほど練習時間が長くなってしまうのが、ピアノの特徴かもしれない。

あぁ、せめて1曲でも満足のいく練習をすればよかった――。

 

そう考えると、文章を書くという行為もこれに似ているかもしれない。たとえばこのブログ、毎日2,000字程度のボリュームでくだらないネタを暴露し続けているが、実際にネタを思いつくまでが長い。調子がいいと秒で決まることもあれば、22時間考えてもひねり出すことができない日もある。

さらにカチャカチャとタイピングを始めてから「公開ボタン」を押すまでに、少なくとも2時間はかかる。ササっと下書きをしてから見直すこと数十回。加えてスマホ画面とパソコン画面の両方で、見え方を整えながら推敲を繰り返すため時間がかかるのだ。

 

なぜこのような七面倒くさい作業をするのかといえば、読み手のほとんどがスマホで見ているからにほかならない。画面の小さいスマホで読む場合、改行やスペース一つとってもパソコンとは見え方が異なる。そうなると、大画面ではストレスなく読み進められる文章が、スマホでは苦痛に感じる場合もあるはず。

私が頑なに守り続けるブログポリシーは「4コマ漫画的要素を死守すること」にある。よって、小難しくてつっかえてしまったり、サラッと読み終えることができない記事ならば、それはどんなにすばらしい内容が書かれていたとしても「失敗作」なのだ。

 

というわけで、どんなにタイピングが速かろうがどんなに構成力があろうが、このくだらない記事を書きあげるまでには毎日数時間を要する。だがこれも、見方を変えるとピアノの練習と似ている部分がある。

さすがに連日、数にして620本も記事を書き続けると、最初の頃より書き上げるスピードは格段に上がった。さらに文字数の感覚も自然と身に付くため、

「この内容なら、このくらいのボリュームはいけるかな」

という野生の勘が働くようになった。あとはどうしても文字数が足りない場合に、なんらかのエビデンスを挟んだり話を脱線させたりすることで、文字数を補う術を会得した。これがテクニックといえるかどうかは不明だが、その場しのぎのズルを編み出すことにも成功したわけだ。

 

「記事を書きあげる速さ」を「ピアノの譜読みの速さ」に置き換えてみると、譜読みが速ければ表現の練習に入るまでの時間が短くなる。そうすれば、トータルの練習時間も短縮される。つまりペースアップを図るなら、現時点での基礎練習をしっかりとこなすことこそが、成長への近道といえるわけか――。

 

(・・・無理だ)

 

こうして私は、効率とは無縁の労働集約型の世界をウロウロし続ける運命なのだろう。

 

サムネイル by 希鳳

 

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