おっさんラブ

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言葉が足りなかったせいで、とんでもない伝わり方をしてしまったーーという苦い経験は誰にでもあるだろう。オッサンやオバハン相手に誤解されても構わないが、若い男子となるとその誤解は確実に訂正しておきたいところ。

「クサいから離れて」

早口でわたしが言う。すると言われた男子はハッとなり、すぐさまわたしから離れた。

 

これは柔術のクラスでの話。練習後に技の確認をしようと、近くにいた男子をつかまえてわたしをガッチリ抑え込んでもらった。痴漢や万引き犯を道路に転がして、そいつを上から抑え込んで逃がさないようにしているシチュエーションだ。

 

そうなると、わたしの肩口あるいは胸の上部に男子の顔がくっ付く体勢となり、わたしがクサければ否応なしに彼は地獄のような時間を過ごすことになる。

ましてや練習後、汗だくのわたしが着ている道衣は大量の汗をぐっしょりと吸い込んでおり、わたし自身、顔をそむけたくなるクサさ。

しかもわたしの練習に付き合ってもらっているにもかかわらず、汗のニオイを強制的に嗅がされる拷問を受けることになるとは、声を掛けられた男子も踏んだり蹴ったりだ。

 

そこで気を利かせたわたしは男子へこう伝えた。

「(わたしが)クサいから、離れて」

必要以上にくっ付かせておくこと自体、パワハラと言われかねない。さらに草食系の年下男子がゴリラのような肉食女に歯向かえるとも思えない。だからこそ、こちらから先に開放宣言をしてやったのだ。

この辺り、デキるオンナは先読みができる。

 

しかし、わたしから離れた男子の顔色が暗い。そしてさりげなく、自分の脇や胸あたりのニオイを確認する素振りを見せた。今にも泣きそうなその表情を見てわたしは思った。

(マズイ!とんでもない失言をしてしまったのでは!)

そうだ。彼は「キミがクサいから離れて」と受け取ったのだ。彼も同じく練習後のため、柔軟剤のいい匂いがするとは思えないが、さすがに「クサいから離れてくれ」と言わせるほどの悪臭を放っているわけがない。

ましてやまだ20代というお年頃ゆえ、自分がクサいなどと言われたことを思うと、それは深く傷つくだろう。

 

「わたしがクサいって意味だからね!わたしがクサいから、離れてってことね!」

必死に失言の弁明をするが、男子の顔色は曇ったまま。かといって、

「ニオイが気にならないなら、もっとくっ付いていいからね!」

というのもおかしな話だ。向こうだって必要に迫られてくっ付かされているだけで、可能ならばすぐさま遠くへ逃げたい気分だろう。

しかし年上かつ獰猛な輩(やから)相手に、ヘタな行動・言動は慎まなければならないと教え込まれているだろうし、今さら何をどう言おうが時すでに遅し。

 

そういえばかつて彼はこんなことを話してくれた。

「道衣やラッシュガード、定期的に漂白剤に漬けてます」

ある程度使い込んだ練習着は、布の繊維が傷み雑菌が繁殖しやすくなるためクサくなる。そこで熱いお湯に浸したり重曹や漂白剤に漬けたりすることで、少しでもニオイを抑えようという殊勝な心構えをみせたのだ。

そんな"気遣い男子"に対して言葉足らずとは言え、「クサい」などと言い放った自分が許せない。

 

ーーあぁ、これがオッサンだったらよかったのに。さすがに誤解だと伝えて謝りはするが、オッサン自身が「もしかしたら俺はクサいのかもしれない」と考え、今後ニオイに気を使うオッサンが一定数現れる。そうすれば、世の中のオッサンたちが「クサい」といって嫌われる回数が減る傾向に。つまり、良いことしか起きないわけだ。

 

次回から練習相手はオッサンを指名することにしよう。

 

 

サムネイル by 希鳳

 

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